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荒廃農地への太陽光パネル設置を規制緩和で推進

2021年10月20日

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 日本政府は、2050年カーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)実現に向けて、さまざまな取り組みを支援しようとしています。なかでも再生可能エネルギーの推進は、目標達成において重要な役割を担っていると考えられています。このような流れを踏まえ、農林水産省は再生可能エネルギー普及促進につながる規制緩和に乗り出しました。今回は、その概要と規制緩和によって何がもたらされるのかを紹介します。

荒廃農地での太陽光利用の規制が緩和

 地球温暖化対策を背景に、⽇本政府は2050年カーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)の⽬標を掲げています。その実現に向けて、再⽣可能エネルギーの普及が急務となっています。特に太陽光発電については、導⼊のしやすさから⼤きな期待が寄せられています。

 太陽光発電の利⽤拡⼤には、農地の活⽤が有⼒な⽅法だと考えられてきました。⽇本全国には耕作が⾏われていない荒廃農地が多数あります。太陽光発電の利⽤拡⼤には、農地の活⽤が有⼒な⽅法だと考えられており、こうした場所に太陽光パネルを設置して発電を⾏うことは、再⽣可能エネルギー普及の面で現実的な施策だとみなされています。

 農林⽔産省によると、全国に荒廃農地はおよそ28万ヘクタールあるといいます。そのうち、太陽光発電設備が設置可能な面積については13万ヘクタールだとする試算もありました。ところが、2018年度までに太陽光パネルが設置された農地は、累計でおよそ1万ヘクタールにとどまっていることが明らかになりました。

 農地の活用が思うように進まなかったのは理由があります。土地には使用目的が限定される「地目」と呼ばれる制度があり、宅地や田、畑、山林、原野、学校用地や鉄道用地といったように土地の利用が限定されています。そのため、地目が田や畑といった「農地」の土地では太陽光発電の施設を設置できないことになっています。

 例えばある事業者が荒廃農地を持つ地主から土地を借りて太陽光パネルを設置しようとした場合、農地を農業以外の目的で使用する「農地転用」の手続きをする必要があります。農地が他の地目に変更された後で再度、田や畑に戻すことは考えにくいこともあって、これまでの農地転用の審査や条件は大変厳しく、転用許可が下りにくいのが通例だったのです。

 農地転用の審査や条件が厳しい背景には、食料の安定供給や農業の発展のため、日本の農地は法律で保護されてきたという経緯があります。ただこの流れにも徐々に変化が訪れていました。大規模な経済連携協定であるTPP(環太平洋パートナーシップ)への参加をきっかけに、農業の在り方についてもさまざまな議論が交わされるようになりました。そして潮目を一気に変えたのが「2050年カーボンニュートラル」です。再生可能エネルギーの利用拡大という大きな動きのもと、政府は農地保護から大きく舵を切りました。今回の規制緩和によって、荒廃農地を太陽光発電所の建設用地として転用しやすくなったのです。

荒廃農地の太陽光発電活用時の「平均収穫量8割以上」を撤廃

 今回の規制緩和のもうひとつの背景として、日本の国土は山間部が多く、太陽光発電所に適した土地が少ないことも関係しています。発電設備を設置する適地は、日照時間が長く、かつ冬季に積雪のないことが条件となります。広大な大地が広がる北海道は、都道府県別日照時間は23位ですが、積雪があるため、太陽光発電所の建設にはそれほど向いていません。土地があり、日照時間が長くても、北陸以北の日本海沿岸や東北地方より北も同様な傾向にあります。

 さらに、山間傾斜地への設置による被災や、景観への影響、騒音などから、自治体や住民との調整が難航するケースも発生しています。農地の活用が期待されているのは、こうした「太陽光発電所の適地不足」という事情もあるのです。

 こういった事情に対応するために、太陽光を農業生産と発電とで共有する「営農型太陽光発電」などの取り組みが行われるようになりました。営農型太陽光発電では、農地に支柱を立てて上部空間に太陽光発電設備を設置し、発電事業を行い、その下の空間では作物を育てて農業を営みます。しかしながら農地に太陽光パネルを設置するには、太陽光パネルの支柱部分について農地の一時転用の許可が必要で、その際に「周辺の農地の平均水準と比べ8割以上」の収穫量を保つことが要件となっていました。これにより、荒廃農地の活用が難しかったのです。

 そのような中、農林水産省は2021年3月23日に開催された「再生可能エネルギーに関するタスクフォース」の会合で、荒廃農地での太陽光利用についての規制を緩和することを表明しました。「周辺の農地の平均水準と比べ8割以上」とされてきた要件が、荒廃農地については撤廃されたのです。この規制緩和によって、荒廃農地を利用して発電に活用できるようになり、再生可能エネルギーの推進を後押しすることが期待されています。

農地の活用で環境と経済の好循環を期待

 一方、農業の視点では、荒廃農地を抱えていた農家が、農地を太陽光発電所として活用することで、農業以外の収入源を確保できるという期待が高まります。

 さらに6次産業化への期待もあります。6次産業化とは、1次、2次、3次それぞれの産業を融合することにより、新しい産業を形成しようとする取り組みのことです。簡単に言えば、生産者(1次産業)が食品加工(2次産業)と流通・販売(3次産業)にも取り組み、それによって経営の多角化を図ることです。ちなみに「6次」は、1次・2次・3次の数字を掛け算したものです。

 太陽光発電により、農業以外の収入が得られたならば、その増えた収入を2次産業や3次産業のために投資することが可能になるでしょう。それによって6次産業化が促進され、農業全体や農山村の経済の活性化につながることが期待されています。

 このように今回の規制緩和による荒廃農地の活用は、「環境と経済の好循環」につながることが期待されます。「環境と経済の好循環」はカーボンニュートラルのキーワードであり、政府の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」にも明記されています。

 2050年のカーボンニュートラル実現を目指すためには、太陽光発電の活用が欠かせません。今回の農地転用の規制緩和が、太陽光発電のさらなる普及のトリガーとなるのか、大いに注目されるところです。

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