2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震は、国内初の全域停電「ブラックアウト」を引き起こし、私たちに大きな衝撃を与えました。これは、従来「一極集中型」が基本だった日本におけるエネルギーシステムのあり方をゆるがすような出来事でした。その中で、改めて注目を集めているのが、再生可能エネルギーなどをはじめとした分散型電源です。今回は、その動向を紹介するとともに、普及することが予想される自家消費の魅力について探ります。
明らかになった従来型エネルギーシステムの限界
北海道胆振東部地震でブラックアウトが発生した理由は、地震後にいくつかの発電所で故障や断線が発生し、電力が供給できなくなったことにあります。電力の需要に対して供給が下回ると、電力の周波数が不安定になります。その影響を防ぐための安全装置が発動し、故障していない発電所までもが次々と停止し、広域にわたる大停電となってしまったのです。
日本は、「3つのE(エネルギーの安定供給、経済効率性の向上、環境への適合)+S(安全性)」*を基本方針にエネルギーを運用しています。今回のブラックアウトは、「安定供給」をおびやかす出来事といっていいものでした。
エネルギーの安定供給といった課題に対応するためには、これまでのように大規模な発電所から一方向的に電力を供給する「一極集中型」のエネルギーシステムに頼るだけでは限界があります。
そうした状況で、従来のエネルギーシステムの課題を解決すると考えられているのが「分散型電源」です。
*経済産業省のエネルギー政策に関する基本方針。参考サイト:経済産業省 日本のエネルギーのいま:政策の視座
分散型電源で変わるもの
分散型電源とは、近隣の地域に必要な電力を供給する小規模なエネルギーシステムのことです。電力会社が管理する「一極集中型」のエネルギーシステムに対し、さまざまな地域に分散していることから「分散型」と名づけられています。
分散型電源の種類には、太陽光や風力といった再生可能エネルギーを活用した発電、ガスタービンなどの化石燃料を利用した設備、水素と酸素を化学反応させて発電する燃料電池などがあります。特に、再生可能エネルギーを活用した発電は、化石燃料への依存度を減らすことができます。つまり、「3E+S」の「環境への適合」を担うものであり、温暖化の緩和が喫緊の課題となる現在、非常に重要な意味を持っているといえるでしょう。
「環境への適合」については、2018年に政府が発表した「第5次エネルギー基本計画」で、より高度な「3E+S」を目指すため、『「脱炭素化」への挑戦』が提示されています。そこでは、2030年までに再生可能エネルギーを主力電源化し、電源構成比率で22~24%にまで引き上げる目標が定められています。
多様なエネルギー供給方法を確保することで、地震などの非常時における供給リスクを分散化するという面でも期待されています。実際に、ある調査によると、北海道胆振東部地震では、住宅用太陽光発電システムの話になりますが、停電時に自立運転機能が有効活用できたという声が多くあったといいます。
さらに、発電した電力を地域内で消費する「地産地消」というモデルでは、エネルギー関連産業の発展などを軸に地域経済の活性化にも貢献可能です。地方自治体が出資する電力会社「地域新電力」を立ち上げるケースも増えています。
分散型電源の利用形態には、地産地消以外にも、太陽光発電などを設置した建物内で利用する「自家消費」、従来の電力網を使って売電するという方法もあります。
特にこれから普及が進むと考えられるのが自家消費です。
自家消費の魅力とは
日本の再生可能エネルギーは、発電した電気を一定の価格で買い取る「FIT(固定価格買取制度)」に支えられ、発展してきました。しかし、買取価格が年々下がる中で、これまでの売電を中心とした運用が難しくなっており、FITからの自立が求められるようになっています。
一方で、再生可能エネルギーの発電コストも年々下がっており、電力会社から電力を購入するのではなく、自家消費を導入するという企業もあります。発電コストが下がれば、その分経済的な魅力も増しますし、環境に優しいエネルギーを使用することは企業の社会貢献という点でも意義があるものです。さらには、企業価値の向上などにも活用できるでしょう。
ここで誤解がないように説明をしておきますが、自家消費をするからといって、既存のエネルギーシステムと完全に切り離されるわけではありません。再生可能エネルギーで発電しつつ、それでも不足する分は今までどおり電力会社から購入する、あるいは自社で使いきれない分の電気を既存の電力網を使用して売電する、といったように併用するのが一般的です。
分散型、自家消費と、電力の利用環境は多様化しています。その中で、脱炭素を軸とした企業のイメージアップ、ステークホルダーへのアピールなどに注目している企業にとっては、取り組むための選択肢が増えている状況にあるのです。それらを有効活用するためには、動向をしっかりと見守り、取捨選択することが必要なのではないでしょうか。
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