現在、国内におけるデータセンターの多くは大都市圏に集中しています。しかし、自然災害リスクの分散や安定した電力の確保などの観点から、データセンターを地方に分散化しようとする動きがあります。データセンターがこれからの街づくりに貢献するためには何が必要になるのでしょうか。今回は、データセンターの新たな動きとして注目されている、地方分散化について紹介します。
データセンターが大都市圏に集中する理由
国内のデータセンターの立地は、大都市圏に集中しています。特に多いといわれているのが、関東の西部や北部、関西の京阪奈地区です。こうした地域に集中するのには、理由があります。
日本の経済活動や国家運営などに関わる重要な情報を扱う機関は、大都市圏に集中しています。そういった情報を扱うデータセンターは、迅速な通信レスポンスやシステム障害発生時における速やかな復旧など、即応性が求められるため、利用者から遠く離れた場所は候補に挙がりにくくなります。
また、高性能かつ大量のコンピューターを稼働させるためには、それに見合った電力を供給できる環境が必要です。
さらに、データセンターの立地には、地盤が強固で地震の影響を比較的受けにくく、河川から離れていて水害の可能性が低いなど、自然災害リスクが低い地域であることも求められます。
こうして「利用者からの距離」と「電力を供給できる環境」、「自然災害リスク」を考慮すると、必然的にデータセンターの立地が偏ってしまうのです。
地方分散化が「Society 5.0」実現に貢献する
政府が大都市への人口や企業の一極集中を解消し、都市機能を分散させようとする中で、都市部に集中したデータセンターの立地状況を改善しようという動きがあります。
現在、政府はICTの力を活用することで新しい価値やサービスを生み出し、私たちの生活に豊かさをもたらす社会「Society 5.0」の実現を目指し、全国でさまざまな取り組みが展開されています。街づくりの分野では、鉄道・バス・航空といったあらゆる交通手段を統合した次世代のモビリティサービスであるMaaSや、ICTの活用によって生活の質の向上や新しい価値創出による経済循環の促進、社会課題の解決を図るスマートシティの実証実験がはじまっています。
こうした新しい街づくりにおいては、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の活用が前提となり、大量のデータがやりとりされるため、通信環境に問題があると、ユーザーに大きなストレスをもたらすことになります。そのため、新しい街づくりでは、社会基盤となる良好な通信環境を実現しなければなりません。
加えて、一部の地域にデータセンターが集中することは、自然災害リスクが分散できず、事前防災や減災対策を妨げるという指摘もあります。さらに、街の機能維持の観点から、都市の電力が逼迫することの可能性も懸念されています。
政府がデータセンターの立地戦略を検討開始
データセンターの一極集中化の問題が顕在化する中で、政府は地方分散化に取り組もうとしています。すでに複数の省庁で事業や検討がはじまっています。
環境省は、令和3年度から令和6年度にかけ、「データセンターのゼロエミッション化・レジリエンス強化促進事業」を実施します。これは再生エネルギーの活用などによるデータセンターのゼロエミッション化と、地方への分散立地を進めることでレジリエンス強靱化を図ろうというものです。データセンターは大量の電力を消費するので、特定の地域に集中させず、電力供給網への負担を和らげる意図もあるとされています。
総務省は、首都圏以外の地域にデータセンターを整備する事業者に対し、助成金交付や債務保証、税制支援を行っています。これには、首都直下型地震への対策やIoTの全国的な展開を見据え、地域のデータセンター整備を促進する目的があります。
さらに、経済産業省は2021年3月24日に「半導体・デジタル産業戦略検討会議」を立ち上げ、データセンターの立地戦略について検討しています。そこでは、レジリエンスの強化、データトラフィックの分散、地方でのデジタル化を推進するために、東京と大阪に次ぐデータセンターの新しい拠点を整備する方向で議論が交わされています。
「Society5.0」の実現に向けた地方創生を進めようとする政府の後押しにより、データセンターの地方分散化も大きく進展しそうです。そこで重要な役割を果たすと考えられるのが、ユーザーの近くに立地する「エッジデータセンター」の存在です。次回は、エッジデータセンターの動向について紹介します。
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