ビジネスコラム

世界46カ国で導入済みの「カーボンプライシング」とは

2021年6月30日

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 国内で、カーボンプライシングの導入に向けた動きが本格化しています。企業の炭素排出量削減にインセンティブを与えるカーボンプライシングは、2050年のカーボンニュートラル実現を目指すための施策として具体的な検討を行う段階に入りました。今回は、カーボンプライシングの動向を紹介します。

すでに46の国と35の地域が導入済み

 カーボンプライシングとは、二酸化炭素(CO2)を排出した量に応じて、企業や家庭が金銭的なコストを負担する仕組みです。日本語では「炭素の価格付け」とも呼ばれています。その狙いは、経済的な手法によって企業や消費者の行動を脱炭素化へと導くことにあります。

 カーボンプライシングの代表的な制度には、「炭素税」と「排出量取引」があります。炭素税は、企業が排出するCO2を対象とした税です。例えば、CO2排出量1トンについて税額を設定し、徴収します。

 一方、排出量取引は、企業が排出できるCO2の上限をあらかじめ決めておき、排出量が上限を超える企業が上限に達していない企業から“排出枠”を買い取る仕組みです。

 このほかに、企業が自社のCO2排出量に価格を付ける「インターナル・カーボンプライシング」があります。価格は、自社のCO2削減目標や炭素税などの外部価格を参考に決定。価格を設定することにより、企業はCO2削減を「コスト」という形で把握できるので、具体的な削減目標やアクションプランを設定しやすくなります。

 また、「クレジット取引」という手法もあります。クレジット取引は、CO2削減に価値を付けて市場ベースで取引するもので、「キャップ&トレード」と「ベースラインクレジット」という方式があります。キャップ&トレードは、排出可能な枠(排出枠)を超えてしまった企業が、枠よりも実際の排出量が少ない企業から排出枠を購入し、それによって削減を行ったとみなします。ベースラインクレジットでは、CO2を削減する取り組みで削減できた排出量をクレジットとして認証します。認証されたクレジットを使うことで、別途排出枠の購入が可能になります。

 カーボンプライシングを世界で初めて導入したのは、フィンランドです。フィンランドが1990年に炭素税を制定した後、カーボンプライシングは多くのEU加盟国に広がりました。排出量取引制度は、2005年にEUがいち早く導入し、アメリカの州政府やオーストラリアなどにも広がりました。世界最大のCO2排出国・中国でも、全国レベルの排出量取引制度が2020年から始まっており、OECD(経済協力開発機構)によれば、現在、カーボンプライシングは46の国と35の地域が導入しています。

日本で本格導入の壁となっていた企業負担の不安

 日本でも、すでにいくつかのカーボンプライシングが導入されています。2012年には実質的な炭素税である「地球温暖化対策税」が導入されました。企業が二酸化炭素の排出量を、1トン当たり289円(2021年5月1日現在)で負担する税金のことで、最近では年間で2500億円程度の税収があります。

 また、東京都や埼玉県などの一部自治体では排出量取引制度を運用しています。対象となるのは、業種を問わず、電気やガスなどのエネルギーの使用量が年間1500キロリットル以上(原油換算)の工場やビルを所有する企業です。事業所ごとに排出の上限が決められ、その上限を超えた場合は自治体が運営するサイトを通じて、上限まで余裕のある企業から必要な分を買い取ることになっています。

 このように、日本でもカーボンプライシングの運用は始まっています。しかし、これまで全国レベルで本格的な制度が導入されることなく、地球温暖化対策税の課税水準や、排出量取引制度の取引額は、他国と比べて低水準です。

 その背景には、カーボンプライシングを本格的に導入すれば、企業の負担が増えるのではないかという声があります。しかし、2021年に入って経済団体が導入検討に一定の理解を示すなど、経済界にも変化の兆しが見られます。

各国が足並みをそろえて排出量削減に挑む時代に

 課題はあるものの、日本でもカーボンプライシングのさらなる導入に向けた議論が始まっています。日本政府は、2050年までにカーボンニュートラル(二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量実質ゼロ)を実現することを目標に掲げました。その戦略の1つが、カーボンプライシングです。

 政府はカーボンプライシングによって行動やお金の流れを変え、排出削減の努力が報われる社会を実現しようとしています。もちろん、それは経済的にもプラスをもたらします。企業がCO2削減につながるエネルギーや技術を積極的に採用する風潮が一般的になれば、新しい市場が生まれる可能性があります。さらに、研究開発が進んだり、脱炭素型のビジネスモデルへの転換が進めば、政府がめざす経済と環境の好循環につながります。

 カーボンプライシングは各国で足並みをそろえる必要がある、という点も重要です。一部の国だけにカーボンプライシングが導入されると、それが貿易障壁となる可能性も考えられます。例えば、排出規制が緩い国で生産された製品の価格は、カーボンプライシングによるコストが少ないため、安くなります。逆に、排出規制が厳しい国で作られた製品は、価格が高くなってしまいます。同じ製品でもカーボンプライシングの取り組みによって価格差が発生することは、貿易摩擦に発展しかねません。

 こうした事態を避ける仕組みを設けようという動きもあります。排出規制が緩く、CO2の価格が低く設定された国の製品を輸入する際に、価格差を輸入事業者が負担する「炭素国境調整措置」という仕組みです。

  ある国が排出規制を強化しても、企業が規制の緩い国へ生産拠点を移して同じように二酸化炭素を排出すれば、世界全体の炭素排出量は減少しません。もしも「炭素国境調整措置」が実施されれば、国際的な競争条件が揃うので、規制の厳しい国から緩い国へと炭素が逃れていく「炭素リーケージ」の発生を防ぐこともできます。

 カーボンプライシングの議論が国内で本格化している背景には、こうした各国の積極的な動きが影響していると考えられます。脱炭素社会の実現、そして、それを支える経済と環境の好循環を生むためにも、カーボンプライシングの議論がどのように進むのか注目したいところです。

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