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人の移動手段を変革し、社会課題を解決する「MaaS」とは

2022年5月25日

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 現在の日本では、少子高齢化に伴う過疎化や都市部への人口集中などによって、一部の地域で公共交通機関を維持することが難しくなってきています。この課題を解決できる可能性を持つ考え方として注目を集めているのが、さまざまな交通手段を1つのサービスとして捉える新しい交通インフラの在り方、「MaaS(マース:Mobility as a Service)」です。ここでは、MaaSの現状や実現に向けた取り組みを解説します。

注目される新しい交通インフラ「MaaS」

 現在、先進国を中心とした国々では、都市部への人口集中や少子高齢化が課題となっています。日本では、一部の地域で過疎化が急激に進行し、地域交通網の維持が困難になっています。利用者が大幅に減った鉄道会社やバス会社などの交通事業者では、多くの赤字路線を抱え、事業継続そのものが難しくなっているケースもあります。

 そこで注目されているのが、さまざまな交通手段(モビリティ)を1つのサービスとして捉える「MaaS(マース:Mobility as a Service)」という新しい交通インフラの在り方です。国土交通省が公開している「令和3年度 国土交通白書」では、MaaSを「地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービス」と定義しています。

 具体的な「サービスとしての交通手段」には、車を個人で所有するのではなく必要なときに利用するカーシェアリング、乗客の有無や希望する目的地のルートとスケジュールを最適化して運行するオンデマンドバスなどが挙げられます。

 しかし、こうしたサービスを実現するためには、さまざまな課題があります。MaaSは一般的に、スマートフォンやPC端末などを使用してサービスの予約や検索、決済などを行います。そのため、顧客情報や運行情報など、各交通事業が保有しているデータの連携が重要となり、情報を相互に共有できる共通仕様のアプリケーションの開発が急務となっています。

「その国でMaasがどれくらい進捗しているのか」については、チャールマス工科大学(スウェーデン)の研究者による、レベル0~4までの5段階の分類方法があります。

 交通事業者や利用者が情報を提供しない「レベル0:統合なし」、利用者が交通機関情報を得られる状態が「レベル1:情報の統合」、アプリなどを利用して移動手段の比較・予約・支払いなどがワンストップで行える「レベル2:予約・支払いの統合」、交通事業者間が連携してサービスの高度化を図る「レベル3:提供するサービスの統合」、最終的には国家プロジェクトのように交通網の在り方を推進する「レベル4:政策の統合」となります。

 日本のMaaSの進捗度は、レベル1に位置していると言われています。

日本版「MaaS」実現へ向けて、国・企業の取り組みが加速

 現在、日本では、Maasを推進するために、国や企業がさまざまな取り組みを実施しています。2021年4月、国土交通省は「MaaS関連データの連携に関するガイドライン2.0」を公開しました。データの整備・標準化では、事業者の垣根を越えた連携が必要なため、政府が主導して交通関連情報の共有化を推進しています。また、同省では、交通事業者への支援・推進活動も行っています。例えば、AIを活用した効率的な配車を実施する「AIオンデマンド交通」、QRコードや非接触型クレジットなど新たなキャッシュレス決済手段の導入推進、利用者が自主的に混雑を回避して、公共交通機関を利用するような行動変容の促進など、支援対象となっている事業はさまざまです。

 交通事業者やメーカーが独自で取り組んでいる例もあります。ある鉄道事業者は、複数の移動手段をシームレスにつないで、ドア・ツー・ドアで移動できる仕組みづくりを推進しています。また、ある機械メーカーでは、観光地などに向けて、歩行者と車両が混在するエリアでも利用可能な低速自動運転EVを開発・公開しています。

 こうした取り組みをサービスとして提供するためには、車両や物流、ICT環境の整備だけではなく、電力などのインフラや都市計画との連動も重要になってきます。そのため、これまで交通事業に参画してこなかった業種や、MaaSによる課題解決を社会貢献として捉えた企業が新規参入することも想定されています。MaaSには、「これまでになかった業種や領域を結びつけることで、新たな市場を創出するのではないか」という期待も存在しているのです。

過疎地域の交通手段確保や環境負荷の低減に寄与

 MaaSが将来的に社会に浸透していけば、自動車や自転車などの移動手段を個人で所有していなくても、さまざまな移動手段を選択し、必要なときに必要な分だけ利用できるようになります。こうした変化によって、過疎地域の交通手段確保をはじめとする社会問題を解消できれば、SDGsの「2030年までに、脆弱な立場にある人々、女性、子供、障害者及び高齢者のニーズへ特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善により、全ての人々に、安全かつ安価で容易に利用できる、持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する」取り組みにもつながるでしょう。

 さらに、「自動車産業のDX」という観点でも注目されています。環境性能に優れた超小型モビリティや電気自動車(EV)、自動運転などのハードウェアの進化に加えて、効率的な経路を分析・提案するAI技術の進化もMaaSの一部として考えられています。

 また、MaaSには、地球環境の保護に寄与する一面もあります。乗客がほとんどいない路線で大きなバスを定期運行するのではなく、乗客数に合わせた交通手段を、必要なだけ運行させることができれば、移動によるCO2排出量の削減につながり、環境負荷の低減が見込めます。

 MaaSは、今後、深刻化していく人口集中や過疎化への対策としてだけでなく、持続可能な社会の実現を担う手段としても期待されています。一般にはまだ馴染みが薄いかもしれませんが、すでに実現に向けた取り組みは各方面で始まっています。自動運転やシェアモビリティが一般的になり、私たちの移動に対する考え方が「所有」から「利用」に変わるのは、そう遠い未来の話ではないのかもしれません。

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