虫眼鏡 検索機能を表す虫眼鏡のアイコンです メール メール送信用の封筒型アイコンです 矢印 矢印アイコンです 別ウィンドウで開く リンクが新しいウィンドウで開くことを示すアイコンです 移動するための矢印アイコン 前後のスライダーへ移動するための矢印アイコンです ダウンロードアイコン ダウンロードするためのアイコンです
JP EN
ビジネスコラム

転換期を迎える日本の交通インフラ~持続可能な移動をどう支えるか

2026年09月30日

Tweet
Facebook

人口減少や人手不足、脱炭素化など、社会環境が大きく変化するなか、日本の交通インフラは転換期を迎えています。新幹線など広域交通の整備が進む一方、地域では日常の移動を支える鉄道やバスの維持・再編が課題となり、新たな移動手段も広がりつつあります。今回は、広域交通、地域交通、脱炭素の3つの視点から、持続可能な交通インフラのあり方を考察します。

広がる広域交通ネットワークと地域への期待

 人やモノの移動を支える交通インフラは、地域経済や企業活動を支える重要な社会基盤です。なかでも新幹線は、大都市圏と地方を結ぶ広域交通として発展を続けてきました。現在も各地で延伸工事や新たな路線の検討が進められており、全国の広域交通ネットワークはさらなる広がりを見せています。

 その一つが北陸新幹線です。1997年に高崎-長野間が開業した後、2015年に金沢、2024年には敦賀まで延伸しました。敦賀以西についても、2026年7月、与党の整備委員会が小浜を経由し、京都の桂川駅付近を通る案を軸に検討を進める方針をまとめました。将来、新大阪まで延伸されれば、首都圏と関西圏を北陸経由で結ぶ新たな交通ネットワークが形成されることになります。

 全国に目を向けると、各地で広域交通ネットワークの整備や検討が続いています。北海道新幹線では新函館北斗-札幌間の建設が進められ、西九州新幹線では、現在の武雄温泉-長崎間と九州新幹線を結ぶ新鳥栖-武雄温泉間について検討が続いています。また、四国では四国新幹線と四国横断新幹線が基本計画に位置付けられています。さらに、リニア中央新幹線も、まず品川-名古屋間、その後に大阪まで延伸する計画が進められています。整備の段階はそれぞれ異なりますが、地域間をより速く結ぶ交通ネットワークの形成に向けた動きが各地で続いています。

 広域交通ネットワークの拡大によって期待されるのが、地域間の交流拡大です。移動時間の短縮によって観光やビジネスにおける人の往来が活発になれば、企業の拠点配置や人材交流にも変化をもたらす可能性があります。地方にとっては、観光振興や企業誘致、雇用創出などを通じ、地域経済の活性化につなげる機会にもなるでしょう。

 一方、新幹線の整備を取り巻く環境は大きく変化しています。資材価格や人件費の上昇に加え、建設現場では人手不足が深刻化しています。トンネルをはじめとする難工事も多く、事業費の増加や工期の長期化への対応が求められます。整備コストが上昇するなか、限られた財源をどこに、どのように投じるかという視点もこれまで以上に重要になります。さらに、人口減少が進むなかでは、将来の利用需要を見極めながら、整備によって地域や社会にもたらされる効果を長期的に捉えることも必要です。

 また、新幹線の整備効果を地域に広げるには、開業後に生まれる人の流れにも目を向ける必要があります。駅周辺の街づくりや観光振興に加え、新幹線駅と周辺地域を結ぶ在来線やバスなどとの連携も、地域への波及効果を左右する要素の一つです。広域交通ネットワークの整備が進む一方、その先の移動を担う地域交通を取り巻く環境も変化しています。広域交通と地域交通をどのようにつないでいくかは、新幹線の整備効果を地域に広げるうえでも重要な視点となっています。

変わる地域交通、どう支える「地域の足」

 新幹線など広域交通ネットワークの整備が進む一方、地域の日常的な移動を支える公共交通は、大きな転換期を迎えています。特に地方では、人口減少やモータリゼーションの進展によって鉄道の利用者が長期的に減少し、JRの赤字路線や地方鉄道では、路線の存続や再編をめぐる議論が続いています。地域によっては、運転免許を持たない学生などが主要な利用者となっており、朝夕の通学時間帯を中心に運行する路線も少なくありません。

 鉄道が廃止・縮小された地域では、バスが住民の移動を支える重要な役割を担います。しかし、そのバスも大きな課題に直面しています。国土交通省の資料によると、バスの運転手は2021年の約11万6,000人から2024年には約10万8,000人へ減少しました。これは2024年に必要とされる約12万9,000人を下回る水準で、2030年には必要な人員に対して約3万6,000人が不足すると推計されています。

 人手不足に加え、利用者の伸び悩みや燃料費、人件費の上昇もバス事業者の経営を圧迫しています。コロナ禍で大きく落ち込んだ一般路線バスの輸送人員は回復傾向にあるものの、2024年現在でもコロナ禍前の水準には戻っていません。また、年間1,500km程度で推移していた路線バスの廃止キロ数は、2023年度に2,496km、2024年度には3,887kmまで増加しました。減便や路線縮小によって利便性が低下すれば、さらなる利用者の減少につながる可能性もあります。

 こうした課題に対応するため、地域交通では、限られた人員や車両を有効に活用しながら、利用者の利便性を高める取り組みが進められています。例えば、バスの位置情報や到着予定時刻を確認できる「バスロケーションシステム」は、待ち時間の不安を軽減し、バスを利用しやすい環境づくりにつながります。その導入系統数は、2023年度には29,068系統まで拡大しました。一方、利用者の予約に応じて運行経路や時間を柔軟に設定する「デマンド交通」や乗合タクシーは、需要に応じて運行することで、利用者が少ない地域でも車両や運転手を効率的に活用できます。さらに、自治体によるコミュニティバスなど、既存の鉄道や路線バスを補完する移動手段も各地で活用されています。

 人口減少と人手不足が続くなか、すべての鉄道やバス路線を従来と同じ形で維持していくことは容易ではありません。今後重要になるのは、「路線を残す」ことだけを目的とするのではなく、地域に必要な「移動」をどのような形で確保していくかという視点です。既存の鉄道やバスを基盤としながら、それだけではカバーできない移動を新たなサービスで補うなど、地域の人口や移動需要に応じて交通手段を組み合わせていく必要があります。従来の交通手段の維持だけにとらわれず、地域の実情に合わせて移動を支える仕組みへと再構築していくことが、これからの地域交通に求められています。

脱炭素で変わる「移動」のかたち

 人やモノの移動を支える交通インフラでは、人口減少や人手不足への対応に加え、脱炭素化も重要なテーマとなっています。鉄道やバス、自動車など、さまざまな交通手段が暮らしや企業活動を支えるなか、その利便性を確保しながら、交通に伴うCO₂排出量をいかに削減していくかが問われています。

 国土交通省の資料によると、2024年度の日本のCO₂排出量約9億7,148万トンのうち、自動車や船舶などの運輸部門は約2割にあたる1億8,719万トンを占めています。その内訳では、自家用乗用車が44.7%と最も多く、営業用貨物車が21.2%、自家用貨物車が16.5%と続きます。一方、バスは2.0%、タクシーは0.7%にとどまります。

 運輸部門のCO₂排出量を削減するには、移動や輸送の方法を見直すとともに、それぞれの交通手段の環境負荷を低減していくことが必要です。人の移動では、自家用車から鉄道やバスなどへの利用転換がその一つです。また物流では、トラックから鉄道や船舶へ輸送手段を切り替えるモーダルシフトが進められています。さらに、EV(電気自動車)をはじめとする電動車への転換もCO₂排出量の削減に向けた選択肢となります。

 ただし、公共交通の運行本数が限られる地方では、通勤や買い物、通院などに自家用車が欠かせない地域もあります。鉄道やバスがあっても、駅やバス停から目的地までの移動が不便であれば、自家用車から公共交通への利用転換は容易ではありません。そのため、既存の鉄道やバスにデマンド交通やタクシー、シェアサイクルなどを組み合わせ、それぞれの交通手段を利用しやすくつないでいくことが求められます。

 複数の交通手段を連携させる仕組みの一つが「MaaS(マース:Mobility as a Service)」です。MaaSでは、鉄道やバス、デマンド交通、タクシー、シェアサイクルなどをデジタル技術でつなぎ、経路検索から予約、決済までを一つのサービスで行えるようにします。複数の交通手段をスムーズに利用できるようにすることで、移動の利便性を高め、自家用車だけに頼らない移動を後押しすることが期待されます。

 例えば群馬県では、さまざまな交通手段をつなぐ「GunMaaS」(グンマース)が展開されています。経路検索に加え、デマンド交通やタクシーの予約、交通チケットの購入などの機能を提供し、鉄道や路線バスを含む複数の交通サービスを一体的に利用できる環境を整えています。既存の公共交通と地域の多様な移動手段を連携させ、自家用車だけに頼らない移動を支える取り組みの一例です。

 公共交通への利用転換やMaaSによる交通手段の連携、自動車の電動化など、脱炭素化に向けた方法は一つではありません。地域の交通事情や移動需要に応じて、それぞれの手段を組み合わせていくことが重要です。また、企業においても、社用車の電動化や物流の効率化、公共交通を利用しやすい通勤環境の整備など、人やモノの移動を見直す余地があります。移動の利便性を確保しながら環境負荷を低減していくことが、地域の暮らしや企業活動を支える持続可能な交通インフラの構築につながっていくでしょう。

関連する記事

最新のコラムや導入事例を
メールマガジンで配信いたします。
えふ・マガの購読はこちら

Contact

ご相談やご依頼について

企業情報やソリューションに関する、
各種お問い合わせはこちらから。