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EV市場に異変?相次ぎ軌道修正を図る世界と日本のEVシフト

2024年10月23日

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 地球規模での環境保護や持続可能な社会の実現に向け、世界の自動車メーカーはEVシフトを表明してきました。しかし、ここにきて欧州の大手自動車メーカーが「2030年完全EV化」の軌道修正を発表しています。今回は「踊り場」に差し掛かったと言われているEV(Electric Vehicle:電気自動車)の現状と、今後推進に舵を切ることが予想される日本の展望について解説します。

方向転換を余儀なくされた世界のEV市場

 2015年のパリ協定を発端とした地球規模での環境保護活動が進む中、これまで加速していたEV(Electric Vehicle:電気自動車)の普及が減速し「踊り場」に差し掛かっているのではないか、という見方が世界的に広まっています。
2024年9月、スウェーデンの大手自動車メーカーがこれまで掲げてきた「2030年までに新車販売のすべてをEVにする」戦略を軌道修正しました。将来的な「完全EV化」の計画は変更しないものの、2030年の段階では、90%をEVとPHV(Plug-in Hybrid Vehicle:プラグインハイブリッド車)、残りの10%をハイブリッドシステムより小型で出力の低いモーターを備えたMHEV(Mild Hybrid Electric Vehicle:マイルドハイブリッド車)にする方針に変更しています。また、ドイツの大手自動車メーカーでも「2030年までに新車販売のすべてをEVにする」計画を撤回するなど、こうした動きは米国の自動車メーカーも同様で、2024年に入りEV減産や新車計画の延期を決めています。

 EV自体の性能は、軽量化による航続距離延伸や高効率の電池・電動機の採用などにより、確実に向上してきました。今後も改良や改善は継続的に進められ、中長期的にはEV需要はさらに高まることが予想されています。それではなぜ今、「完全EV化」計画の軌道修正がなされたのでしょうか。要因の一つとして、EVに対する補助金制度の変更が影響しているのではないかと言われています。EVは同じクラスの燃料自動車に比べ高価であるため、政策的な支援の変化が一般消費者の購買動向に影響を与えます。

 ドイツ政府は、EVの購入時に支給する補助金制度を1年前倒しで終了することを決めています。当初、補助金の財政運営に新型コロナウイルス感染症対策で執行されなかった予算を転用する予定でした。しかし、その方針自体が憲法違反に当たると判断されたため、ドイツ政府はカーボンニュートラル推進に向けた一部計画の棚上げを余儀なくされました。

 また欧州におけるEV関連の動きとして、欧州委員会は2024年10月4日、中国製EVに輸入関税の引き上げを課す案について採決を行い、加盟国から十分な支持を得たため、追加関税が発動される見通しとなりました。これはフランスやイタリアなどにおいて、自国の自動車メーカーが中小型車を中心にEV開発、販売に乗り出している状況の中、中国製EVが市場を席巻していることに対する措置と考えられています。同様の措置として、米国政府も中国製EVへの関税を現在の4倍の100%にすること発表しています。

カーボンニュートラル実現に向けた日本の現状と施策

 日本に目を向けてみると、2050年カーボンニュートラル実現に向け、政府は「2035年までに乗用車の新車販売で電動車100%を実現するために、包括的な措置を講じる(商用車については小型車・大型車に分け、別途目標値を設定する)」との戦略を打ち出しています。しかし世界の流れとは異なり、この「電動車」にはEVのほか、ガソリンと電気を使うHV(Hybrid Vehicle:ハイブリッド車)やPHV、さらには水素から電気をつくるFCV(Fuel Cell Vehicle:燃料電池自動車)も含めています。日本の場合、普通車だけでなく軽自動車においてもHV化が進んでおり、すべての自動車メーカーが普通車や軽自動車のHVを製造販売しているという背景があるためです。

 欧州などと同様、日本にもEVに対する補助金制度があります。政府が支給する2024年度の補助金は、EVが上限額85万円、PHVおよび軽自動車のEVが上限額55万円とされています。それに加えて、独自の補助金を支給している地方自治体もあります。たとえば2024年度東京都の場合、給電機能を備えたEV・PHVは45万円、給電機能がない車両は35万円。また、給電機能を備えたFCVは110万円、給電機能がない車両は100万円の補助金が支給されます。補助金には細かな規定はありますが、個人・法人所有にかかわらず支給されることになっています。

 しかし、日本の新車販売に占めるEVの割合は、一般社団法人日本自動車販売協会連合会の発表によると2023年で1.66%と非常に低く、その一方でHVの割合は55.07%と高い状況です。EVの普及が遅れている要因として、車種が少ないことや自動車本体価格が高いこと、またそれ以外に挙げられているのが、急速充電スタンド普及の遅れや、充電時間の長さです。自宅や事業所の駐車場であれば、専用充電設備から一晩あればフルチャージできます。ですが、外出先で急速充電設備を使用する場合、充電時間は30分と定められています。200~400km程度走行が可能なEVの場合、搭載するバッテリーの容量や温度などの条件により違いはあるものの、30分程度の急速充電ではフルチャージできません。燃料自動車が数分で満タンになることを考えると、かなり不便と言わざるを得ません。そのためEVで遠出をする際は、急速充電設備の設置場所をあらかじめ確認しておくことが必要になります。

 インフラの整備は普及と表裏一体でもあり、EVの導入支援と両輪として進める必要があります。そこで、政府は2030年までに急速充電設備30,000基、普通充電設備120,000基および水素ステーション1,000基の整備をめざし、設備費や工事費を補助する事業をおこなっています。EVやPHV用の充電設備については、特に、集合住宅、高速道路のサービスエリア、山間部などの空白地域などで重点的に整備をおこなっていく方針としています。

EVによって変革する⁉日本の自動車市場

 現状は「踊り場」に差し掛かっているEVですが、今後さらなる地球温暖化抑制のために主流となっていくのは明らかです。それによって現在の自動車メーカーの勢力図も大きく変化する可能性があります。実際に、日本で販売されている米国製EVの中心であるメーカーは、EV専業で立ち上がってきた新興企業です。また、世界最大の自動車市場である中国では、異業種からの参入や新興企業が相次ぎ登場することで、今では世界最大のEV市場を形成しています。

 燃料自動車全盛時代の自動車メーカーにとって一番重要なことは、他社が真似できない技術や生産体制によるエンジン開発と車両製造と言われてきました。そして自動車市場の発展とともに、素材や各種部品製造などの周辺産業も併せて成長していくことで、広い裾野を持った一大産業という、今の自動車産業のカタチを形成しました。しかし、海外のEV市場で新興企業が台頭しているように、日本のEV市場にも新たなプレーヤーとして家電メーカーなどが参入する動きが出てきています。

 これまで日本の自動車メーカーは、EVシフトにおいて世界の潮流に乗り遅れていると指摘されてきました。ですが日本の自動車メーカーは、HVやPHVの開発・生産にいち早く乗り出し、世界をリードしてきた実績があります。また、電動車に不可欠なリチウムイオン電池や高効率・高出力の電動機を開発・実用化することで、ノウハウを蓄積してきました。そうした技術力をベースに現在、EVの開発を本格化させています。

 世界の大手自動車メーカーがEVシフトの手を緩めつつある今、日本市場では大型車や特殊車両を除いた乗用車におけるEV販売台数の増加が予想されています。本格的にEVシフトを進めていく中、最適な軽量素材やバッテリー、電動機、制御機器など幅広い分野において高い技術力や効率的な生産能力を持つ日本の自動車産業の強みが、EV市場でも発揮されることになるでしょう。今後、EVの普及が進み、私たちにとって身近なものになれば、カーボンニュートラルを肌で感じ、さらには持続可能な社会の実現へ一歩近づいていくのではないでしょうか。

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