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2017年8月30日

AI(人工知能)を活用する超高層建物向けアクティブ制振技術を開発
~長周期地震動に対し従来制振技術よりも大幅に揺れを低減~

 株式会社NTTファシリティーズ(本社:東京都港区、代表取締役社長:一法師 淳 以下、NTTファシリティーズ)は、超高層建物の長周期地震動*1対策として、業界初となる振動制御にAIを活用する新しいアクティブ制振技術*2(以下、本技術)を開発しました。
 本技術は、強化学習とディープラーニングを組み合せた深層強化学習*3により最適な振動制御を学習したAIが、地震の揺れに応じて建物内部のダンパー*4を電動アクチュエーター*5で制御するものであり、大型模型試験体を用いた振動実験により、従来技術のパッシブ制振*6に比べ建物の揺れを50%以上低減できることを確認しました。
 既存超高層建物の長周期地震動対策への本技術の導入によりパッシブ制振と同じ制振性能を概ね半数のダンパーで実現させ、工事量の削減、工事期間の短縮を通して対策工事コストを最大30%削減することを目標としています。
 今後は、実建物への適用に向けた開発をさらに進め、10月に実機の電動アクチュエーターを用いる動作確認試験を実施し、本年中に完成させ2018年1月からの本格提供を予定しております。

1.背景と目的

 2011年の東日本大震災では、長周期地震動を受けた超高層建物の揺れが長時間続き、仕上材・設備の損傷や什器類の転倒などが多発し、建物内の多くの人々が不安を感じました。
 しかしながら、既存の超高層建物への長周期地震動対策は十分に進んでおらず、高い確率で発生が予測される南海トラフ沿いの巨大地震に向けた対策が焦眉の急となっています。
 一方、近年のAI技術は急速に進歩してきており、「機械学習*7」の実用化と「ディープラーニング(深層学習)*8」の登場により、幅広い分野においてAIの活用が進められています。
 NTTファシリティーズでは、長周期地震動に対する超高層建物の損傷低減と居住者の不安軽減を目的に、AIを活用して、従来技術よりも高い制振効果を生み出す新たな手法の研究を進め、数値解析シミュレーションと振動実験により本技術の有効性を確認しました。

2.アクティブ制振システムの特徴

(1) AIによる高い制振性能の実現

 建物の揺れを抑制するようにダンパーを自律的に制御するAIの導入により、パッシブ制振を上回る制振効果を実現します。
 AIの開発には、強化学習とディープラーニングを組み合せた深層強化学習を採用し、コンピューターにおける建物地震応答シミュレーターを用いて制振効果の高い制御を自動的に学習させます(図1参照)。制御を学習したAIは、建物に設置されるセンサーの計測データを用い、地震時にダンパーの減衰力を自律的に制御して建物に生じる揺れを抑制します。ダンパーの制御は、これらに直列に連結した電動アクチュエーターによってダンパーに生じる軸方向速度をコントロールすることにより行います(図2参照)。

 なお、本技術のAIは、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(本社:東京都江東区、代表取締役社⻑: 岩本 敏男)および株式会社NTTデータ数理システム(東京都新宿区、代表取締役社⻑:箱守 聰)の協⼒のもと、NTTグループのAI技術「corevo®(コレボ)」*9を活⽤し開発を進めています。

(図1)シミュレーターを用いる深層強化学習イメージ
シミュレーターを用いる深層強化学習イメージ
※図をクリックすると、拡大表示でご覧になれます。
(図2)アクティブ制振システムイメージ
アクティブ制振システムイメージ
※図をクリックすると、拡大表示でご覧になれます。

(2) 長周期地震動に対する有効性を振動実験により検証

 本技術の有効性は、20階建の建物を想定した大型模型試験体を、NTTファシリティーズが保有する広帯域対応大型3次元振動試験システム*10に設置して長周期地震動を再現し検証しました(図3参照)。
 振動実験では、長周期地震動の成分を持つ地震動波形の他、建物が共振する地震環境下における制振効果を確認するため、模型試験体の1次固有周期と同じ周期の正弦波を入力波形とする振動実験も実施しました。その結果、建物の揺れをパッシブ制振と比較して50%以上低減できることが確認できました(図4、5参照)。

(図3)振動試験状況
振動試験状況
(図4)長周期地震動に対する振動試験結果(頂部変位時刻歴)
長周期地震動に対する振動試験結果(頂部変位時刻歴)
※図をクリックすると、拡大表示でご覧になれます。
(図5)正弦波(模型試験体1次固有周期と同じ周期)に対する振動試験結果
:東西方向頂部変位時刻歴
(図5)正弦波(模型試験体1次固有周期と同じ周期)に対する振動試験結果:東西方向頂部変位時刻歴
※図をクリックすると、拡大表示でご覧になれます。

(3) ダンパー数の削減による、低コスト化の実現

 既存超高層建物への長周期地震動対策においては、パッシブ制振と同じ制振性能をアクティブ制振では概ね半数のダンパーで実現することができます。対策に必要なスペースを半減させ、耐震改修工事の量を削減することにより、従来技術よりも工事コストの削減(最大30%削減することを目標)、工事期間の短縮が可能となります。
 これにより、建物オーナー様に対しては耐震対策による不動産価値の向上に加え、賃貸面積に及ぼす影響を小さくすることで賃料収入に貢献し、建物入居者に対しては工事期間中の影響を最小限に留めます。

3.今後の展開

 2018年からの本技術の市場導入を目指し、実建物への適用に向けた開発を進めており、関西エリアのビルに導入することを計画しています。今後は、特に南海トラフ沿いの巨大地震に対する超高層建物への長周期地震動対策として積極的に提案してまいります。
 また、安心・安全な街づくりを目指すNTTファシリティーズは、建物安全度判定サポートシステム『揺れモニ®*11をはじめとする様々な耐震ソリューションによってお客様のご要望にお応えし、引続き、レジリエントな社会の実現に貢献してまいります。

用語説明

*1 長周期地震動
規模の大きな地震が起きた際に生じる揺れが1往復するのにかかる時間(周期)が長い地震動
建物の揺れの周期が長周期地震動の周期と近いほど共振しやすく、また、建物の上階ほど大きく揺れます。
*2 アクティブ制振
外部からのエネルギーを用いて、揺れの抑制に必要な制御力を建物に与える振動制御方法
センサーにより計測したデータに基づいて制御力を決定し、ダンパーを能動的に動かして建物の揺れを制御します。
*3 深層強化学習
明確な答えがない中で試行錯誤により最適な答えを見つけていく手法である強化学習に、ディープラーニングを組み合わせたもの
*4 ダンパー
地震のエネルギーを吸収することで建物の揺れを抑える装置
*5 電動アクチュエーター
モーターと機械部品を組み合わせた電気エネルギーを利用して伸縮する駆動装置
*6 パッシブ制振
地震時に生じる建物の変形を利用してダンパーのエネルギー吸収を生み出す振動制御方法
大きなエネルギー吸収効果を発揮するためには,それに見合った建物の変形が必要
*7 機械学習
センサーやその他の手段で収集されたデータの中から、コンピューターが自律的に一貫性のある規則を見つけだす技術、手法
*8 ディープラーニング
脳の神経回路にヒントを得た「ニューラルネットワーク」を用い、コンピューターがデータの特徴を学習して事象の認識や分類を行う「機械学習」の一手法
回路の中間部分を多層構成にすることにより、データの特徴をより深いレベルで学習し、非常に高い精度で認識できます。
*9 corevo® corevo
「corevo®」は⽇本電信電話株式会社の商標です。(http://www.ntt.co.jp/corevo/)
*10 広帯域対応大型3次元振動試験システム
マグニチュード8クラスの巨大地震時における超高層建物内部の揺れを忠実にシミュレートすることが可能な世界最高性能を誇る3次元振動台
*11 揺れモニ®
地震発生直後に建物の安全性を迅速に判定するシステム
加速度センサーを建物の全階に設置し、建物の特性に応じて、5つの指標 「変形」、「固有周期」、「傾斜」、「揺れの強さ」、「揺れ方」から適切な指標を選択することで精度の高い判定が可能
「揺れモニ®」は、株式会社NTTファシリティーズの商標です。
【本件に関する報道機関からのお問合せ先】
   NTTファシリティーズ 経営企画部広報室
MAIL:pr@ntt-f.co.jp

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