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1.背景 |
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近年、兵庫県南部地震(1995年)、トルコ地震(1999年)、台湾地震(1999年)など都市近傍で発生した地震により、多くの人的災害や財産の喪失が生じると同時に、建築・土木構造物やライフラインを含めた都市施設に甚大な被害が発生しています。このような地震災害を回避または軽減するには、断層の破壊や地盤の構造を考慮した地震動予測が必要になってきています。
また、平成12年6月に施行された建築基準法では、従来の仕様規定設計から性能規定設計への移行が示されています。このような状況のもと、設計者は建築主に対して建物の性能をより明確に提示することが要求されています。建物の耐震性能レベルは、設定する地震動の大きさや特性と密接に関わっており、建物性能評価を行う上で精度の高い設計用地震動の設定が必要になっています。
以上の背景から、NTTファシリティーズでは、京都大学大学院工学研究科(河野允宏教授)、関西大学工学部(松田敏助手)と共同で、高精度に地震動を計算できる地震動予測システムを実用化し、性能規定に対応できる構造設計を行っています。 |
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2.地震動予測システムの概要、特長 |
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断層破壊で発生した地震波は地盤中を伝播して、地表面に達します。このため、地表の揺れは、断層破壊にともなう滑りと、地層構造による散乱、減衰、反射、屈折、増幅などの影響を受けたものとなります(図1)。特に、敷地が断層に近い直下型地震の場合、断層の破壊の影響を強く受けた地震となります。このような地震の特性を考慮し、建設地での地震動を精度良く予測するためには、実現象をできるだけ忠実に模擬できる計算モデルを用いる必要があります。従来のモデルでは、断層の不均質な破壊によって生じる比較的高い振動数の地震波や、深い地盤中を地震波が伝播するときの散乱を計算することができませんでした。この地震動予測システムでは、断層破壊の運動学、ランダム理論と波動伝播理論を基にしており、断層破壊をランダムに変動する膜の運動で置き換えた震源モデル(図2)と、層地盤の最下層をランダム媒質とした地盤モデル(図2)を用いることにより、これらの問題を解決しています。これにより、地震動予測システムに適切な断層データと地盤データを入力すれば、低振動数から高振動数に至るまで高精度な地震動予測が可能になります。
当社では、このシステムを活用して、大規模な都市災害の発生が懸念されている南関東地震(M7.9)、東海地震(M7.9)、濃尾地震(M8.0)などの再現を予測し、これらの地震動を使って複数の高層ビル、制震・免震ビルの構造設計を行っています。例として、横浜メディアタワー(平成11年4月竣工)設計時に用いた南関東地震の加速度波形を図3に示します。 |
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3.今後の展開 |
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NTTファシリティーズでは建築設計において、地震動予測システムをはじめ、独自に開発した「立体骨組動的弾塑性解析システム」などの豊富な解析プログラムを用いて、建築物の耐震性能を柱・梁の構成部材に至るまで詳細に検証しています。性能設計においては、建築主に対して建築物の性能をより詳細に提示する必要があり、建築基準法の旧基準から新基準への移行が進むにつれて、これらのシステムへの需要が益々増加してくると考えられます。
また今後は、地震動評価に関するコンサルティングビジネスを展開していきたいと考えています。例えば、このシステムを用いて地震危険度の高い活断層やプレート付近の地震予測を進め、建築物の構造性能評価や都市防災シミュレーションなどに活用していく予定です。 |
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4.用語の説明 |
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1) |
断層破壊の運動学:実際の断層の複雑な破壊を、質量と剛性を持つ等価な弾性体の運動で置換したもの。 |
2) |
ランダム媒質:特に、深い地盤にあるリソスフェア(岩石圏)中を地震波が伝播するときに現れる散乱減衰を評価するために、地震波の周期特性に依存した減衰特性をもつ地盤モデル。 |
3) |
波動伝播理論:連続媒体中を伝播する波動を、波動方程式を解くことにより求める理論。 |
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【本件に関する報道機関からのお問合せ先】 |
NTTファシリティーズ 経営企画部広報室 MAIL:pr@ntt-f.co.jp |
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