前回取り上げたデータセンターの電力ロス、それを低減する技術にはさまざまなものが存在します。その1つとして「HVDC」(High Voltage Direct Current:高電圧直流給電)というシステムがあります。
データセンターのキャパシティを拡張する上で、ボトルネックとなっている消費電力の増大という課題に対し、「HVDC」はその課題を解決する切り札となるのでしょうか。今回は、HVDCの仕組みとそのメリットを中心に紹介します。
直流給電の弱みを補完する高電圧の力
直流給電の魅力は、電気の変換回数を減らし、その際に発生する電力ロスを低減するという点にあります。
直流に対応した機器に給電する場合、直流の電気をそのまま使った方が、交流の電気を使うよりも変換の回数が少なくなることは明らかでしょう。
しかし、前回もご紹介したとおり、現在、電力会社から家庭やオフィスへは交流で電気が供給されています。特にデータセンターなどでは複雑な変換が行われています。
これには理由があります。その1つが、直流で送電する際に屋内外で使われる電線の抵抗。電線の抵抗よって、電力のロスが発生してしまうのです。
HVDCは、高い圧力で送電することにより、そうした送電時のロスを解決した技術です。
電力ロスだけではない「HVDC」が解決するもの
給電方式を従来の交流給電からHVDCに変えることで、さまざまなメリットがあります。
電力を変換する装置が減れば、それだけ故障の可能性があるポイントも減ることになります。直流給電により、給電の方法がシンプルになることで、電力ロスはもちろん、変換装置の故障といったトラブルのリスクの低減にもつながり、その分信頼性が向上します。
高電圧を採用することで、送電に使われているケーブルを細くできることも見逃せません。近年、消費電力量の増加に合わせて、送電ケーブルは太くなる傾向にあり、それが施設内のスペースを圧迫しています。それが小径化されると、施設内の省スペースにもつながっていきます。
そして、やはり一番大きなメリットは電力ロスの低減です。従来の交流給電からHVDCの給電へと変更した場合、変更前と比較すると約20%の消費電力削減が可能になるといわれています。こうしたことから、世界的な省エネ化の流れの中で、HVDCを導入する企業も増えつつあります。
データセンター、ビルへと広がる直流給電
省エネという観点からいえば、直流給電と再生可能エネルギーの親和性も大切なポイントです。
なぜならば、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーは、直流で発電し直流で送電されるからです。すでに先進的な企業は、HVDCとともに再生可能エネルギーの活用に取り組んでいます。
そうした事例の1つとしては、米国のあるIT企業のデータセンターは2012年以降、再生可能エネルギー100%で稼働。2017年末には別のIT企業も、データセンターをはじめとした自社の全施設が再生可能エネルギー100%で稼働するようになりました。
直流給電の活用はデータセンターにとどまりません。ビル内の配電すべてを直流で行う事例も登場しています。これは、変換による電力ロスを低減するとともに、再生可能エネルギーの導入を容易にする事例となっています。
増え続ける消費電力によって引き起こされる、環境問題。この課題を解決する技術として、直流給電はさまざまな分野で期待を集めているのです。
HVDCでデータセンターの熱問題を改善せよ
HVDCは、さまざまな分野で導入が進んでいますが、その中でデータセンターにおける熱問題の改善にも期待が集まっています。
電力ロスには熱を伴います。例えば、ノートパソコンなどを長時間使っていて、ACアダプターを触ると熱くなっているという経験をしたことはないでしょうか。この時の熱は、交流から直流への変換で生じた電力ロスに起因するものなのです。
データセンターでは、デジタルトランスフォーメーションとともに消費電力量が増加しており、その中で施設内におけるICT機器などの発熱量が急増。それによって、冷却に関わる電力消費やコストも拡大し続けています。さらに、空調機の必要台数も増え続けており、その設置スペースの確保が悩みの種となっています。
こうした課題は、HVDCを導入することによって改善することができるのです。しかし、熱問題に取り組むためにはHVDCと並行して、別の解決方法にも踏み込む必要があるといいます。
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