前回の記事では、働き方改革の目的の1つである「生産性の向上」に取り組む上で、コミュニケーションが非常に重要になると紹介しました。実はコミュニケーションのほかにも、生産性に影響を与えるものはたくさんあるといいます。オフィスの可視化をキーワードに、生産性の向上について考えます。
生産性の向上につながる概念とは
生産性を改善するためには、オフィスのあり方を考えることが必要です。
オフィスは、働き方に大きな影響を与えるものです。例えば、日本で主流となっている部署ごとに机を向かい合わせで配置する対向島型のオフィスレイアウトは、部署単位での情報交換を密にしようという意図があります。
反対に、社員の席を固定しないフリーアドレスは、部署にとらわれず多様なコミュニケーションを活性化し、創造的な仕事につなげようというオフィスレイアウトです。
オフィスで働き方に影響を与えるものは、レイアウトだけではありません。空調や照明といった設備も、社員の健康や快適さを支える重要な要素になります。
生産性を改善するためには、そうした様々な影響を考慮する必要があります。そこで、注目をしたいのが、「ウェルネス」という概念です。
ウェルネスは、1960年代に、米国の公衆衛生学者であるハルバート・L・ダン博士が提唱した概念です。企業がオフィス環境の改善を通して健康の増進に取り組み、心身ともに健康的な時間を送れるように職場を保つことは、従業員のモチベーションや集中力を高め、仕事の質ややりがいを向上させることにもつながります。
ウェルネスのために可視化すべきもの
日本ではウェルネスの推進に関わる取り組みとして、「健康経営」や「WELL認証」への関心が高まっています。それらで示される指標は、オフィスづくりを考える際にも参考になるものです。
健康経営は、従業員などの健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することで、組織の活性化につなげようという経営手法です。経済産業省は、その普及に力を入れており、オフィス環境づくりから従業員の健康保持・増進などに取り組む「健康経営オフィス」のレポートを発表しています。
レポートの中では、健康を保持・増進する行動を7つに分類。「快適性を感じる」「コミュニケーションする」「休憩・気分転換する」「体を動かす」「適切な食行動をとる」「清潔にする」「健康意識を高める」といったことが、健康につながるとしています。
WELL認証は、米国の認証団体「IWBI」が運用する、住環境に空間のデザイン・構築・運用に「人間の健康」という視点を加えた評価システムです。建物の環境やエネルギー性能に加えて、その中で暮らし、働く居住者の健康・快適性について評価を行います。
そこでの評価は、「空気」「水」「食物」「光」「フィットネス」「快適性」「こころ」という7つのカテゴリーにわけて行われます。
生産性の改善とオフィスを結びつけるのには、こうした健康経営やWELL認証などの指標が参考になります。
オフィスの可視化はIoTの活用によって進む
健康経営やWELL認証からもわかるとおり、生産性の向上には、社内のコミュニケーションや従業員の心理状態、健康状態などが影響していると考えられます。
そのため、コミュニケーション量や従業員はどういった状態にあるのか、それらに影響を与える要因は何なのか、現状を把握する必要があります。しかし、かたちのないコミュニケーションや心理状態は把握しづらく、健康状態についてもリアルタイムに追いかけることは容易ではありませんでした。
そうした状態を、IoTを活用することでデータとして把握が可能になります。
オフィスで取得できるデータは、「環境情報」「位置情報」「心理情報」という3つに分けることができます。それらのデータがどのように生産性の向上と結びつくのかを考えてみましょう。
環境情報としては、室内の温度や湿度、二酸化炭素の濃度、作業環境の照度があげられます。こうしたデータを取得し、常に快適な環境を保つことで、従業員の集中力も持続しやすくなります。これまで温度や照明の調整は人の手によって行われてきましたが、最近では、AIを使ってリアルタイムにコントロールすることも可能になっており、常に快適な環境を維持しやすくなっています。
位置情報は、従業員の位置や動線といったものが対象になります。ビーコンなどを使って位置情報がわかれば、従業員同士の距離や対面になった回数から、コミュニケーションの頻度が明らかになります。さらに、動線を把握することで、異なる部門の従業員の動線が交わるようにすればコミュニケーションを活性化することも可能になります。
心理情報は、従業員の心理状態を測定します。センサーを使ってどのように心理状態がわかるのか不思議に思うかもしれません。それには、従業員が身に付けたセンサーから体の細かな動きを読み取って気分の良し悪しや集中の度合いを推定したり、目の動きや姿勢などから集中やストレスの度合いを測ったりするといった方法が考え出されています。
また、心理情報とは少し違うかもしれませんが、ストレスの原因となるような会議室やトイレの満室状態をさけるために、その空き状況を従業員に通知するといった方法もあります。
このように、データを活用することによってオフィスの可視化は飛躍的に進みます。そこで得たデータをもとに、例えば、室内の快適性がネックになっていると分かれば、自動制御が可能な空調や照明を検討したり、コミュニケーションに課題があれば、島型に並んだデスクをフリーアドレスに変えて自由な会話を引き出したりという手も打てるでしょう。
そうした打ち手を、さらなるデータの収集、評価と改善を通じ、次へとつなげるサイクルを生むことで、オフィスのウェルネスを増進することが可能になります。それは、企業の生産性にも良い影響を与えるはずです。働き方改革の実現は容易ではありませんが、そのヒントはオフィスに隠れているのかもしれません。
関連する記事
関連する商品・サービス
メールマガジンで配信いたします。