地球環境問題を解決するために、“省エネルギー化“があらゆる企業において共通課題となっています。その一方で、デジタル技術によってビジネスにイノベーションをもたらす「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が進み、ICT機器の消費電力が増大しています。特にデータセンターは世界の消費電力のうち2%を占めており、早急な改善が求められています。省エネ化とDXへの対応、この2つの課題をどのように解決すればいいのでしょうか。 今回は、データセンターの省エネルギー化に貢献する「高電圧直流(HVDC)」について紹介します。
限界に向かって増え続けるデータセンターの負荷
オフィスや自宅、交通といった社会インフラまで、さまざまな分野でIoTの活用は広がり続けており、その中で世界のデータトラフィックは爆発的に増加しています。さらに、AIによるビックデータの解析もさまざまな分野で活用されはじめています。
日に日に増えていく膨大なデータに、データセンターの負荷はこれまでになく高まっているといえるでしょう。そうした状況に対処するために、小型化・高性能化したサーバーをより多く設置することで、高速かつ効率的にデータを処理しようという取り組みが進んでいます。
サーバー数が増えると処理能力は高まりますが、一方で困った問題も発生します。サーバーが高密度化することで、消費電力が増えてしまうのです。近年、省エネルギーが社会において喫緊の課題となる中、データセンターの消費電力は看過できないほど大きなものとなっています。
世界中で進展するDXを前に、データセンターでは課題が山積みになっている状態なのです。では、こうした課題をどのように解決すればいいのでしょうか。
従来の給電方法を変える「HVDC」とは
データセンターの高負荷解消で注目したいのが、「電源」です。電源周りの消費電力はデータセンターの約25%を占めており、この部分を改善することは電源に起因する電力ロスを減らすだけでなく、ICT機器の省エネルギー化にもつながるといわれています。
身近なICT機器には、直流で動いているものが多くあります。例えば、スマートフォンがそうです。しかし、スマートフォン自体は直流で動いているのですが、電力会社から自宅のコンセントへは交流の電気が送られています。これをACアダプターで直流に変換した上で、スマートフォンに給電しているのです。
データセンターにも直流で動くICT機器は多く存在します。CPUなどのチップは、その代表といえるでしょう。データセンターで商用電源からCPUへ給電する際も、交流から直流へ変換します。その過程はスマートフォンよりも複雑で、複数回の電力変換が行われます。
ここで問題になるのが、電圧を変換する際に電気回路の開閉によって生じる電力の変換ロス、いわゆる「スイッチングロス」。従来のデータセンターでは、これによって多くの電力を損失していました。
それに有効なのが「高電圧直流給電(HVDC)」という技術。HVDCは、直流の電気を高圧でやりとりすることで電力変換を最小限に抑えます。電力変換の回数が減るため、従来の交流給電システムと比べてロスが非常に少なくなり、給電効率が向上。より少ないエネルギーでデータセンターを運用できるようになるため、省エネ化にもつながります。
メリットはほかにもあり、電力変換がシンプルになることで、交流給電の際に必要だった交流変換装置がいらなくなり、省スペース化もできます。さらに、故障リスクを減らすことにもなり、信頼性が高まります。
こうした複合的なメリットがHVDCの特徴といえます。
HVDCはビルや街へと広がっていく
今後、HVDCや直流給電はデータセンターのみならず、あらゆる場面で活用が広がっていくことでしょう。実際に、HVDCの世界市場は、2015年度に4,800億円でしたが、2030年度には1兆4,800億円にまで成長するという予測もあります。
以前は、その普及にはハードルもありました。既存のデータセンターやサーバーなどのICT機器類は、交流給電を前提に設計されているため、直流給電への移行は導入時のコストがネックとなっていたのです。
しかし、現在では、HVDC給電システムの低価格化も進んでいます。それに加えて、HVDCの普及を後押しするような実証研究も着々と進んでいます。
例えば、太陽光発電で生み出される電気は直流のため、直流給電との親和性が高いと考えられています。この点に注目し、ビルにHVDCを大々的に取り入れて、再生可能エネルギーを効率よく活用しようという研究も進んでいます。ほかにも、HVDCは、直流で動く電気自動車(EV)への活用も期待されています。
環境負荷を低減し、よりよい未来を築くために、HVDCはデータセンターだけではなく、街づくり、建物と多方面で活用が進もうとしているのが現状です。そうした中で、今後、HVDCや直流給電は、あらゆる場面で活用が広がっていくことでしょう。
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