前回は、「発電」「小売り」と続いた電力システム改革の動向について紹介しました。改革の最後を飾るのが「送配電」の自由化、いわゆる「発送電分離」です。2020年に実施される「発送電分離」で電力システム改革は大きな節目を迎えることになります。それによって電力産業が活性化されるとともに、再生可能エネルギーの普及においても大きな意味を持つことなりそうです。
発送電分離の狙いとは
政府が「発送電分離」を進める背景には、より公平な競争を電力産業に促すことで、電気料金の低減や市場の活性化につなげたいという狙いがあります。
「発電」の自由化によって発電事業への新規参入が可能となり、「小売り」の自由化によって利用者が電力会社を選べるようになりました。そうした改革によって、電力市場には発電事業者や小売事業者などの参入が相次いでおり、特に再生可能エネルギーについては市場拡大の要因となっています。
さらなる市場の活性化を図るためには、すべての事業者とって公平かつ透明性のある競争環境が欠かせません。そこで鍵となるのが送配電網です。
オフィスや家庭に電気を届けるための電柱や電線といった送配電網は、各地域の大手電力会社が独自で構築・運用しています。そのため、例えば新規参入企業が太陽光発電によってつくられた電気を販売する際には、大手電力会社が所有する送配電網を借りる必要があります。しかし、大手電力会社は送配電部門の他に発電部門も抱えているため、自社に有利になるよう、新規参入してきた他の発電事業者が送配電網を利用することを制限したり、利用料金を高く設定するのではないかという懸念も指摘されてきました。
こうした懸念を払しょくするために、「発送電分離」の議論が進められてきました。
法的分離で送配電部門の独立性を確保する
「発送電分離」を実現する方法としては、「会計分離」と「法的分離」という方法があります。
2003年の制度改正により、いち早く導入されたのが「会計分離」です。これは、送配電部門の会計を他部門の会計から分離することで、送配電網の利用料金(託送料金)について透明性を確保しようというもの。
「会計分離」では、大手電力会社の発電部門が自社の送配電網を利用する際に、他の事業者と同じ託送料金を支払うことになります。さらに、情報の目的外利用や自社を有利に取り扱うことを禁止する規則も設けるなど中立性を高める工夫をしています。
2013年には、「法的分離」の実施が閣議決定されました。ここでは、送配電事業者が発電事業や小売事業を運営することを禁じています。つまり、大手電力会社の送配電部門と、発電部門や小売部門を別会社として切り離そうというのです。
送配電部門は、同じグループ会社として発電部門や小売部門と資本関係にありますが、人事や予算などに厳しい規制が設けられており、「会計分離」よりも格段に独立性が高められています。
「法的分離」は、2015年に成立した改正電気事業法にもとづき、2020年4月に実施される予定です。
自社に最適かつリーズナブルな電気が利用可能に
「法的分離」の実施は、利用者にとって電気料金や選択肢など多くの面でメリットがありそうです。
「発電」「小売り」「送配電」の独立性が高まることで、各部門のコスト構造がより明瞭になることでしょう。電力産業の透明性が保たれることによって新規参入が活発になれば、電気料金の適正化といった利用者の便益にもつながります。ちなみに、「発電」「小売り」という過去の自由化では、電気料金の抑制について5兆円以上の効果があったという試算もあります。
新規参入が活発になることで、利用できる電気の選択肢も広がります。企業であれば、太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、天然ガスなどの多様な電源の中から、自社のビジョンや経営環境に合わせて最適な選択をできるようになるのです。
このように、発送電分離は利用者にとって大きなメリットが期待できるものといえます。2020年の「法的分離」の実現により、電力システム改革が1つの節目を迎えようとしている今、自社に最適な電源あるいは電気事業者とは何か改めて検討してみてはいかがでしょうか。
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