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ビジネスコラム

Society 5.0へとつながるシミュレーション技術「デジタルツイン」のインパクト

2020年4月15日

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 現実の世界をリアルタイムでデジタルの世界に再現する技術「デジタルツイン」。この技術を用いて、デジタル世界の中に現実の街並みをまるごと再現する計画が、東京をはじめとした静岡県などの各地域でもはじまろうとしています。デジタルツインは製造業にはじまり、街づくりなどさまざまな分野で活用が期待されています。今回は、その動向や事例を紹介します。

デジタル上で創られる新たな社会

 デジタルツインとは、現実世界にあるモノの形状や状態、機能を瓜二つの双子(ツイン)のように仮想世界に再現するという技術です。リアルタイムで非常に高い精度のシミュレーションが行えることから、幅広い分野での活用が期待されています。

 このデジタルツインを用いた新たな社会像が、政府の描く「Society 5.0」です。2016年1月22日に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」では、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く社会をSociety 5.0としています。そのコンセプトは、仮想世界と現実世界を高度に融合させ、経済発展と社会的課題の解決を両立する社会というもので、デジタルツインと合致するものです。

 Society 5.0では、Society 4.0で行われているように、人が情報を収集してそれを処理するのではなく、各所にあるセンサーでデータをリアルタイムに収集し、その膨大なデータをAIで分析。それにより、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題を解決しようというのです。

 例えば、再生可能エネルギーの分野では、気象情報、発電所の稼働状況、各家庭での使用状況といった大量のデータをAIで解析し、的確な需要予測や気象予測を踏まえた安定的な供給につなげるといった姿が想定されています。

製造業、データセンターと広がり続ける利用シーン

 デジタルツインの利用範囲は街づくりにまで広がっていますが、ビジネスシーンで最も導入が早かった分野は製造業の分野でした。

 製造業では品質や効率性を担保するために、設計や生産などあらゆる工程でシミュレーションが行われています。デジタルツインは、これまでのように試作品や生産ラインを実際に用意する必要がないため、シミュレーションにかかる時間もコストも大幅に抑えることができます。

 ある企業は、製品の使用状況を再現した仮想空間上でプロトタイプ作り、検証することで開発時間を短縮しています。また、別の企業では、製品の納入後に運転状況をリアルタイムでモニタリングしながら、仮想空間で利用状況をシミュレーションし、故障予測などに活用しています。

 デジタルツインの活用範囲は広がり続け、例えばデータセンターにおける導入事例もあります。データセンターでは、発熱するサーバなどのICT機器をいかに効率的に冷却するかが課題になっています。これに対し、サーバルーム内の気流パターンや温度分布、各サーバラックをシミュレーションすることで、効率的な冷却を実現した事例もあります。

 不動産業界では、デジタルツインで設計や建設現場をシミュレーションすることにより、建物スペースの効率化や省エネルギー化につなげれられるのではないかと考えられています。

仮想空間に東京が誕生も

 現在は製造業を中心に導入が進むデジタルツインですが、今後はさまざまな業界で活用が進みそうです。それに伴い、市場も急速に拡大していくと考えられています。あるレポートでは、デジタルツインの世界的市場規模が2023年には約1兆7500億円にまで拡大するという試算が紹介されています。

 デジタルツインの活用領域として期待されているものには、都市の課題発見・解決や災害予測・対策、疾病拡散予測・抑制などに加え、地球・宇宙規模という非常に大規模なシミュレーションも含まれています。このうち、都市の課題発見・解決については、シンガポールが数年前から先進的な取り組みを進めています。

 その「バーチャル・シンガポール」という取り組みは、建築物や地形・景観、交通網などの国土全体を3Dモデル化し、輸送効率の向上と街づくりにおける工事の効率化など都市問題を解決しようという意欲的なものです。

 日本でも意欲的な取り組みが進んでいます。2020年2月7日、東京都は都市のデジタル化を推進するため、「スマート東京実施戦略~東京版Society 5.0の実現に向けて~」を発表しました。これは、デジタルツインによって、現実世界の都市や都民の状況をリアルタイムで把握しようというものです。

 サイバー空間で通常は実施が難しい分析・シミュレーションを行い、現実世界にフィードバックすることで、都政の改善やデータに基づいた施策の検討を行うほか、都民・都内滞在者の生活の質(QOL)向上、安全・ 安心・快適な暮らしのサポートなどに活かしていこうというのです。まずは、西新宿・南大沢・都心部・ベイエリア・島しょ地域という先行実施エリアから、デジタルツインに関する事業を開始する計画となっています。

 また、静岡県は、県内の地形や構造物などの3Dデータを収集し、自動運転の実証実験や観光などに役立てようという取り組み「VIRTUAL SHIZUOKA」を進めています。なお、このデータは、「Shizuoka Point Cloud DB」というWebサイトで無料公開されています。

 このように日本ではデジタルツインより、Society 5.0という新しい時代の幕開けに向けた準備が進んでいるのです。デジタルツインは、今回紹介した事例だけでなくさらに幅広いビジネスシーンで利用が進んでいくものと思われます。その動向が社会とビジネスにどのような影響を与えていくのか、今後も目が離せません。

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