ビジネスコラム

「水素社会の実現」に向けた国内外の最新動向

2021年5月19日

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 地球温暖化をはじめ環境問題への取り組みが重視される中で、次世代のエネルギー源として「水素」に大きな注目が集まっています。水の電気分解により得られる、CO2の発生量がゼロなクリーンエネルギーとして「水素エネルギー」の国内外の最新動向を紹介いたします。

国内外で期待の高まる水素エネルギー

 2021年4月22日・23日、オンライン形式の気候変動サミットが開かれ、アメリカ・日本・中国をはじめとする世界各国・地域の首脳40人が演説を行い、地球温暖化対策を世界の共通課題として取り組む姿勢を示しました。

 現在、世界各国で「脱炭素化」実現に向けたさまざまな取り組みが進められています。そこで太陽光、風力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーとともに、大きな脚光を浴びているのが「水素エネルギー」です。

 水素は、石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料と違い、燃焼させても二酸化炭素(CO2)がまったく発生しないクリーンエネルギー源です。

 水素エネルギーは、脱炭素化の実現に向けた選択肢として今後の需要拡大が予想されます。現在、期待されている利用先には、水素と酸素を反応させてできた電力を利用して走行する燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle)や、ガスに含まれる水素を利用して発電すると同時に、発熱を利用して給湯を行う家庭用燃料電池などがあります。さらに大規模な水素発電所など、活用の可能性は広がっています。

 水素エネルギーの導入促進は、すでに世界的な潮流になっています。EUは2020年7月に大胆な「EU水素戦略」を打ち出し、世界を驚かせました。2050年までに、風力や太陽光などの再生エネルギーを利用して生産する「グリーン水素」へ1800億〜4700億ユーロ(約22兆〜57兆円)の投資を行い、新たに100万人分の雇用を生み出すといいます。

 日本政府も水素エネルギーを重視しており、「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を制定しています。2017年末に閣僚会議で決定した「水素基本戦略」は、このロードマップの内容を包括しつつ、水素エネルギーを「カーボンフリーなエネルギー」の新しい選択肢のひとつとして位置づけています。

 さらに2020年12月には「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が発表されました。同戦略では、水素エネルギーを発電・輸送・産業など幅広い分野で活用が期待されるキーテクノロジーとして捉えるほか、水素の消費量を2030年に最大300万トン、2050年に2000万トン程度に拡大する方針が掲げられました。

普及に伴い新しい市場の創出が期待される

 天然資源である石炭や石油、天然ガス、自然エネルギーなどは1次エネルギーと呼ばれます。これに対して、1次エネルギーを加工して得られる電力や都市ガスなどは2次エネルギーと呼ばれます。水素エネルギーも2次エネルギーです。2次エネルギーである水素エネルギーを活用するには、「製造」、「貯蔵・輸送」、「利用に至るサプライチェーンの構築」が必須になります。

 水素を製造するには、水を電気分解する方法以外に、天然ガスや石油といった化石燃料から取り出す方法、メタノールやエタノールを改質して作る方法があります。このほか次世代の水素製造技術として注目されているのは、光触媒による方法です。

 水素がエネルギー源として大規模に製造・利用されるようになると、水素をどのように貯蔵し、輸送するかという点も課題となります。現在のところ、高圧ガス法、液体水素法、パイプライン法、有機ハイドライド法、水素吸蔵合金法など、さまざまな方法が提案・検討されています。

 実際に水素エネルギーを活用できる社会を実現するためには、インフラの整備や低価格化も重要なポイントです。ある自動車メーカーはすでに燃料電池自動車を発売していますが、普及にあたっては量産化や販売価格が課題となっています。また、燃料を補給する水素ステーションの整備も必要になってきます。

 家庭用燃料電池については、2009年にガス会社が世界初の商用機を日本で発売して以来、着実に販売を伸ばしています。当初に比べれば価格は安くなりましたが、普及に弾みをつけるためにはさらなる低価格化が必要だと考えられています。

 今後は大規模水素発電での利用も鍵になります。水素から作った電気を家庭や事業者に送るのが水素発電です。2010年にはイタリアの電力会社が、既存の石炭火力発電所内に、世界初となる商用の水素発電設備を整備しました。日本でも同様に水素発電所を建設する動きが見られます。

 水素エネルギーが普及することで、製造や輸送・運輸分野・民生分野・発電分野などにおける新たな市場創出が見込まれています。市場の創出と支えることを目的に、水素分野においてグローバルに連携を図り、サプライチェーンの形成を推進する事業者団体も結成されました。

 これらの企業や団体は、相互に連携しながら、水素の製造から貯蔵・輸送、そして利用可能な各分野で積極的なビジネスを展開しています。今後、その動きはますます加速し、関連する産業も幅広い分野に拡大するとみられています。

企業・自治体で進む水素活用に関する取り組み

 全国的に水素エネルギーに関わる先進的な取り組みを行う企業や自治体が登場し始めています。

 福島県のある町で進められているプロジェクトでは、クリーンで低コストな水素製造技術の確立を目指して、世界最大級の水素製造設備が建設されました。この設備では、数万枚の太陽光パネルによって発電を行い、その電気で水を電気分解し、水素を製造します。1日当たりの水素製造量は約3万㎥を予定しています。製造された水素は、燃料電池向けの発電用途、燃料電池自動車などのモビリティ用途に使用されています。

 このほか、日本国内での電力供給に利用するために海外から水素を輸送する実証実験も行われています。この実証実験では、まず水素供給国で水素からメチルシクロヘキサンという物質を生成。この物質は常温・常圧で液体なので、輸送しやすいのが特長です。生成されたメチルシクロヘキサンは、タンカーによって海上輸送されます。約10カ月間で約100トンの国際間水素大量輸送を実現し、水素サプライチェーンを構築することに成功しました。

 さらに、水素エネルギーによって熱と電気の同時供給を行う試みもあります。2018年に試験運転を始めた関西地方の実証プラントでは、水素ガスタービン発電設備を利用し、市街地で水素100%による熱電併給を達成しました。

 水素の製造から利用に至るまでのさまざまな課題を解決し、サプライチェーンを構築することで、「水素社会」の実現が一歩ずつ進んでいきます。地球温暖化対策にも寄与する次世代エネルギー源としての水素と、「水素社会」の実現が生み出す新たな市場の動向に、注目してみてはいかがでしょうか。

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