エシカル消費の「エシカル」とは「倫理的な」「道徳的な」という意味を持ちます。環境行動への取り組みが加速する現在、「環境に配慮した」「社会課題の解決に役立つ」という意味合いでも用いられ、ビジネスの世界でも実践することが求められています。地域の活性化や雇用などを含む、人・社会・地域・環境に配慮した消費行動「エシカル消費」の現状について解説します。
消費行動における認知度の変化
エシカル消費の「エシカル」とは倫理的、道徳的なという意味の形容詞です。エシカル消費とはより良い社会の実現に向け、人や社会、環境などに配慮した消費行動を意味します。身近な行動としてはフェアトレードに基づいた商品やサービスを積極的に選択すること、地元の食材を地元のお店で買うこと、適切な量で購入し、食品ロスをなくすことなどが挙げられます。
しかし現状は、依然として大量生産・大量消費・大量廃棄の暮らしにより、地球温暖化や海洋汚染などが発生し、生態系の破壊、エネルギー資源の減少、異常気象による農作物への被害などが深刻化しています。このような問題を見過ごすのではなく、より良い未来に向かって一歩を踏み出すためにもエシカル消費を心掛け、次の世代へバトンをつないでいくことが重要だと考えられています。
地球温暖化が原因と思われる異常気象による災害は、毎年のように日本や世界各地で発生しています。1997年12月に日本で開催された第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)では、地球温暖化防止のための「京都議定書」が採択され、それ以降のCOPにおいても取り組みの強化や加速が訴えられてきました。しかし、地球温暖化の影響は深刻度を増し、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた世界規模での活動の強化が進められる中、個人の意識は着実に変化しています。
消費者庁が2016年度に実施した「倫理的消費(エシカル消費)」に関する消費者意識調査報告書(調査数2,500)によれば、「エシカル消費」に関連する言葉で、最も認知度が高かったものが「エコ」で50.9%、ついで「ロハス」32.5%、「フェアトレード」23.2%、「サステナビリティ」10.0%となっており、「倫理的消費(エシカル消費)」6.0%、「エシカル」にいたってはわずか4.4%という結果でした。
しかし、自然災害の頻発などをはじめ、年々環境意識が高まっていることを背景に、2019年度の調査(調査数2,803)では「エコ」72.6%、「ロハス」34.8%、「フェアトレード」27.3%、「サステナビリティ」15.3%、「倫理的消費(エシカル消費)」12.2%、「エシカル」8.8%となり、エシカル消費やエシカルの認知度は2016年度に比べ倍増しました。
さらに、「エシカル消費」をテーマに行った2022年度の第3回消費者生活意識調査(調査数5,000)では、エシカル消費を知っているかという設問に対して、「知っている」という回答は「言葉と内容の両方を知っている」「言葉は知っているが内容は知らない」を含めて、26.9%に増えたという結果となりました。
法律や制度がエシカル消費意識を後押し
個人の「環境に優しい」消費に対する意識は、確実に高まっています。それを裏付けるものとして、CO₂排出量を削減するハイブリッドカー(HV)、電気自動車(EV)をはじめとするエコカーの需要が拡大しています。個人が購入する登録車・軽自動車では、エコカー減税の「自動車重量税・自動車取得税の減免措置」のうち、免税対象車の割合が2011年度は15.1%でしたが、2021年度は25.2%と10ポイント増加しています。これは、自動車メーカーが販売するHV車などのバリエーションが増えている影響もありますが、消費者が積極的に環境を意識して購入しているとも言えるでしょう。
また、日本政府はガソリン価格上昇対策として、石油元売り会社などに補助金を支給してきました。しかし、ロシアのウクライナ侵攻で高騰に拍車が掛かっていた燃料価格は、世界経済の減速による需要の減退で補助金導入前の水準に概ね戻っているため、政府の補助は2023年6月から減額、9月末には終了する方針が示されました。そういった背景を受け、燃料代の支出を抑えるためにも、環境を意識したエコカーの需要は今後もさらに高まることが予想されます。
エシカル消費に対する意識の変化は、法律や制度の面からも促されています。2020年7月1日からレジ袋が有料になりました。わずか数円のレジ袋ですが、有料となったことでマイバッグやエコバッグを使用する光景を当たり前のように見るようになりました。さらに、2022年4月1日からは「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」も施行されています。
リサイクル・リユース・リデュースの3Rに加えてリニューアブルを推進するために、事業者はプラスチック製品の排出削減や自主回収・再資源化などが求められ、消費者はプラスチック廃棄物の排出抑制や分別回収に対応すること、自治体はプラスチック廃棄物の分別収集や再商品化に適した措置を講じることなどが定められています。
これまでプラスチック廃棄物は多くの自治体で分別回収ではなく、サーマルリサイクルつまり燃やして熱回収することが一般的でした。ごみ収集を担う自治体は、その制度や体制に対応する必要があります。徳島県徳島市は2023年5月15日から、それまで「燃やせるごみ」としていた名称を、「分別頑張ったんやけど、燃やすしかないごみ」に変更しています。これも市民の環境意識、分別回収への協力を促すための施策と言えるでしょう。
エシカル消費の浸透で環境・社会課題解決に貢献
個人のエシカル消費に対する意識は、具体的な行動にも表れてきています。2022年度第3回消費者生活意識調査によると「エシカル消費につながる行動として実践していること」では、「マイバッグ・マイ箸・マイカップ等の利用」が最も高く58.5%を占めました。そのほかにも「節水・節電」50.7%、「食品ロス削減」43.0%などが続き、「3R活動」は27.5%という結果が示されました。そうした行動に取り組む理由としては、「同じものを購入するなら環境や社会に貢献できるものを選びたい」53.8%、「節約につながる」47.1%、「環境や社会課題を解決したい」46.3%など、回答者の半数近くが環境や社会課題の解決を意識したものとなっています。
企業はこうした消費者意識の変容を見逃すわけにはいきません。多くの企業がSDGsへの対応やカーボンニュートラルに向けた行動規範を策定し、その取り組みを強化しています。SDGsで掲げられた17の目標のうち、12番目に挙げられているのが、「持続可能な生産・消費形態の確保(つくる責任・つかう責任)」というもので、エシカル消費はこの目標達成をはじめさまざまな形でSDGsに貢献すると考えられています。また、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が注目される中、E・S・Gのどれをとってもエシカル消費と密接な関わりがあると言えます。
これまでの消費行動は、大量生産・大量消費が経済を発展させ成長を促す重要な要素でした。しかし資源には限りがあり、持続可能な社会の実現には、極力無駄を省き有効活用する、もしくは消費しないという選択肢が今後出てくるかもしれません。例えば、食に対する意識や行動を変えることで、食品ロスの削減量に貢献できるでしょう。2020年度における日本の食品ロス推計は520万t超で、2015年度から比べると124万t減少となりました。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、農林水産省が推計を開始した2012年以降、最小になっています。そのうち事業系に関しては、2030年度の目標値である273万tに迫る275万tまでの削減を実現しています。
エシカル消費は、環境保護や食糧不足といった社会課題の解決にもつながります。今、世代を問わず、不要品をECサイトやオークションサイトに出品する行動が一般的になっています。モノを長く大切に使うということ、不要になったらリユースしてもらうという機会が増えていることもエシカル消費を後押します。企業が環境に優しく、社会課題の解決につながる商品を提供することや、そして個人がエシカルを意識し消費者の責任として行動することで、持続可能な社会の実現に向けてよりエシカル消費が普遍的に浸透していくことになるでしょう。
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