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地球温暖化による影響で変わりゆく日本の四季

2024年2月28日

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 南北に長く春といえども寒暖差が大きい日本では、サクラの開花時期に1か月程度違いがあります。しかし2023年春は、全国各地で「観測史上最早」を記録、「かなり早い」地域が増えました。今回は、サクラ開花時期の早まりから紐解き、地球温暖化によって変化する日本の季節感やその影響について解説します。

様変わりする春の風物詩

 2024年2月は例年になく暖かい日が続き、すでに春の気配を感じるようになりました。そんな日本の春を代表するものとして、サクラが挙げられます。昨年2023年におけるサクラの開花は、東京・千代田区の靖国神社境内にある標本木(ソメイヨシノ)が3月14日、札幌市が4月15日、それ以外の地域でも福岡県、高知県、広島県が「早い」開花で、鹿児島県だけが「平年並み」となり、多くの都市で平年に比べ「かなり早い」開花となりました。サクラの開花を判定する標本木は、東京都以外では大阪城公園(大阪府)、二条城(京都府)など、全国に58本あります。

 日本気象協会が発表する2024年のサクラ開花予想は、「東京都3月20日、福岡県3月19日、札幌市は昨年より12日遅い4月27日」と昨年に比べてやや遅いものの、平年に比べれば「やや早い」か「かなり早い」ことになりそうです。民間気象情報会社の開花予想も、ほぼ同様で「東京都3月20日、福岡県3月21日、札幌市4月18日」とし、「関東以北では平年よりも早い開花」を発表しています。

 春の風物詩として、「満開に咲くサクラの下で入学式」を連想する人が多いと思います。そこで、例年開花が早い東京都における2011年から2022年までの開花日を振り返ると、2011年3月28日、2012年3月31日、2013年3月16日、2014年3月25日、2015年3月23日、2016年3月21日、2017年3月21日、2018年3月17日、2019年3月21日、2020年3月14日、2021年3月14日、2022年3月20日となっており、少しずつ早まっている印象を受けます。サクラは開花から満開まで一般的に5日から1週間程度必要とされており、2016年以降、入学式には満開を迎え散り始めている頃と言えます。今後も3月20日前後に開花するとなれば、満開までに必要な期間を考慮しても、もはや関東以北でなければ「満開に咲くサクラの下で入学式」は望めなくなりそうです。

 地球温暖化やヒートアイランド現象が影響とみられる早期開花を考えると、これからは入学式ではなくむしろ満開のサクラの下で卒業式、さらに早まって入試の合格を知らせる「サクラサク」またはその逆「サクラチル」の電文通りに、満開のサクラの下で合否発表という光景が見られることになり、春の風物詩も様変わりしていくのかもしれません。

早期開花は地球温暖化が鳴らす警鐘

 しかし暖かければ暖かいほど、サクラの開花が早まるわけではありません。もちろん開花してから満開になるまで暖かい日が続くことが重要なポイントになりますが、意外なことに冬が寒いということもサクラにとっては重要になります。サクラに限らず春の訪れを待つ落葉広葉樹などは、秋に休眠状態に入るため葉に栄養が送られず、葉が枯れて紅葉したのちに落葉します。

 サクラも同様で秋に休眠状態に入りますが、花芽は冬の寒さで目覚めるというのが、一般的なサクラのサイクルとなっています。これは「休眠打破」と言われるもので、秋から冬に気温が下がることで、サクラは春が近いことに気がつき目を覚まし、その後花芽を生長させます。サクラの花芽における「休眠打破」は、3℃~10℃前後の低温が必要とされていますが、地球温暖化が進み秋から冬にかけて必要な低温環境がなければ、十分な「休眠打破」ができず逆に花芽の生長が遅れることになります。花芽の生長が遅れれば、近年 “早まっている”と感じるサクラの開花時期が遅くなることが予想されます。それだけでなく、このまま地球温暖化が進めば、2100年頃には日本各地で「サクラが咲かなくなる」という予測もあるほどです。

 日本各地には様々なサクラの名所がありますが、早期開花の影響が大きいと考えられる場所の一つが青森県弘前市の弘前公園です。弘前公園は弘前城堀端のサクラが、ゴールデンウィークに満開となることで、例年多くの観光客で賑わいます。しかし今後、開花時期が早まることで、今までのような花見とはならず、ゴールデンウィーク期間は、それまでに散ってしまったサクラの花びらが堀を埋めつくす「花筏」を楽しむ花見となる可能性も出てきます。ちなみに、弘前公園の2023年ソメイヨシノ開花は4月7日で観測史上最早となりました。民間気象情報会社の発表によれば今年は4月15日開花予想となっています。

 弘前公園だけでなく、日本各地のサクラの名所では満開となるサクラに合わせて「サクラ祭り」を予定しているところが多くあります。例年より早く満開を迎えてしまう可能性があることで、祭り開催時期を例年より早めている地域も出てきているようです。このような気候変動は秋の深まりを遅らせ、紅葉時期にも影響を与えています。農作物に目を向けると、2月~3月に急激な気温上昇が発生した場合、お茶の生産地では一番茶生育期(3月~5月)に寒の戻りによる晩霜害が発生し、品質・収穫量の低下リスクが高まると言われています。サクラの早期開花をはじめとするこういった現象は、地方経済にも影響を及ばしかねず、地球温暖化に対する警鐘とも言えるでしょう。

豊かな日本の四季を守るために

 地球温暖化の影響は気温だけでなく、海面水温上昇にも表れています。気象庁は、日本近海における2022年までの海域平均海水温上昇率が+1.24℃/100年と発表しており、この上昇率は、世界全体+0.60℃/100年、北太平洋全体+0.62℃/100年と比べてみても非常に高いものとなっています。海域別に見てみると、釧路沖では海面水温平年差が最大2℃近くの水準、また三陸沖でも同様に1℃以上の差が出たりと変動があるものの、この100年で見ると海面水温は上昇傾向にあると言えます。

 この影響を受けているのが、秋の味覚の一つであるサンマです。釧路沖や三陸沖など日本列島の東方近海は一大漁場となっていました。しかし近年、サンマは不漁が続いています。2008年に35.5万tを記録して以降徐々に減少し、2021年には2.1万tまで減少、2022年はさらに減少して1.8万tにまで落ち込みました。2023年には前年比プラスに転じたものの2.4万tと低水準のままです。同様の傾向はスルメイカをはじめとするイカ類にも見られ、近年は漁獲量が激減している状況です。これらの要因は乱獲などに加え、日本の東方沖に暖水塊が発生し、低温を好むサンマやイカ類が日本近海から離れていることが原因だと考えられています。

 海水温の上昇は日本の食卓に異変を起こすだけではありません。2023年7月の本コラム「気候変動現象が引き起こす社会活動への影響」でも取り上げたように、太平洋の赤道域、日付変更線付近から南米沿岸かけて海面水温の高い状態が1年程度続く「エルニーニョ現象」が起きることで、日本は暖冬になる傾向があるとされています。実際に降雪地域の積雪量は少なく、スキー場経営などに影響が出ています。

 暖冬傾向が進む一方、2024年2月5日には東京23区にも大雪警報が出るなど、時ならぬ大雪に見舞われました。これは日本の南岸を低気圧が通過する際に、北の寒気団を呼び込むことで関東地方も降雪になりやすくなるためですが、これに加え海水温が上昇していることで、大気中の水蒸気量が増え、稀に大雪になります。日常的に降雪への備えができていない関東地方では、交通渋滞や転倒による事故が相次ぎました。

 このようにサクラの早期開花や漁獲量が変動、天候が不安定になるなど、地球温暖化や都市化によるヒートアイランド現象の影響は思わぬところで、私たちの“季節感のズレ”を引き起こしています。四季折々の自然を大切に暮らしてきた日本の生活にも影響を与え、春にはサクラ、秋には紅葉を楽しんだり、旬の食べ物を味わったり、といった季節の変化を感じる機会が失われつつあります。豊かで素晴らしい日本の四季を守るために、環境について今一度自分に問いかけ、できることから取り組んでみてはいかがでしょうか。

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