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新しい街づくりへ、期待が高まるLRTの可能性

2023年11月29日

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 2023年8月、国内では75年振りになる自動車道路と併用軌道を持つ、新しい路面電車が開業されました。LRT(ライト・レール・トランジット)と呼ばれるこの新交通システムは、新線としては国内初の導入となりました。スマートシティやコンパクトシティと言われる街づくりを実現する上で、重要な役割を担うと言われるLRT。ここでは、LRTの公共交通機関としての期待、それらを活用した街づくり、今後の展望などについて解説します。

快適、省エネ、環境にも配慮した新交通システム

 2023年8月、自動車道路と併用軌道を持つ路面電車の新しい路線が75年振りに開業しました。栃木県宇都宮市のJR宇都宮駅東口と芳賀・高根沢工業団地の14.6㎞を結ぶ「宇都宮ライトレール」です。宇都宮市では、2015年より各拠点をつないで相互に連携する「NCC(ネットワーク型コンパクトシティ)」構想を掲げ街づくりを推進しています。快適で省エネ性に優れ、環境にも配慮した新しい交通システムと言われるライト・レール・トランジット(LRT=Light Rail Transit)導入もその一つでした。

 敷設・導入の原点は、現在東部方面の終着駅である「芳賀・高根沢工業団地」への通勤にあります。同工業団地は、栃木県の南東部に位置し、高度産業集積地域における中核工業団地として役割を担っており、そこには大手自動車関連企業の生産拠点や輸送会社の倉庫などが立地し、多くの人が働いています。もともと公共交通空白地帯であった同地域への通勤は、自家用車に依存しており、同工業団地へ続く道路周辺では渋滞が慢性化し問題となっていました。

 LRTの導入は、これらの課題を抜本的に改善することから期待され、実際に宇都宮市の中心部と一大産業団地である芳賀・高根沢工業団地をLRTで結んだ結果、開業当初と比べ現在では日常利用が浸透し、慢性的な渋滞の改善・解消が進んでいます。また、東北新幹線からのアクセスも容易になるなど利便性向上も同時に図られ、LRT導入は地域の課題解決だけでなく、街全体における価値の向上にも繋がっています。

 LRTの車両には、超低床型のライト・レール・ヴィークル(LRV=Light Rail Vehicle)が用いられています。客室床面が非常に低いことで乗降性に優れ、お年寄りや障がいのある方にも優しいアクセシビリティな車両となっています。LRVは床の高さを低くするために、小さな車輪を採用していることに加え、床下機器の小型化や配置を工夫して乗降ドアを低く設置しています。これにより駅や停留所のプラットホームの高さが低くなり、転落事故の防止にもつなげています。さらに一つの車両が短く、それを連接構造とすることで半径の小さなカーブをスムーズに曲がることもできます。また、運用面でも連接構造で1ユニットを構成する固定編成の場合、車両を2台つなげれば2倍の定員となるため、多客期や閑散期にも臨機応変な対応が可能となります。

 環境面においては、架線とレールから集電し電動機で駆動するので、走行時にCO₂を排出しないため環境に優しい点も評価されています。加えて、昨今の環境対策としてのBEV(バッテリー式電気自動車)市場の広がりを背景に、LRTへのバッテリー搭載が検討されています。宇都宮市はLRTを中心とした「公共交通機関の活性化推進」「中心市街地や公共交通沿線への機能集積推進」という2つの取り組みによって、2030年における運輸部門のCO₂排出量が2010年比で33%減少すると試算しています。また、地域新電力を立ち上げ、廃棄物発電による電力を供給する計画もあり、LRTの電源を100%再生可能エネルギーでまかなうこともめざしています。

LRT導入により快適で安心な街づくりを

 日本の公共交通機関の歩みを振り返ると明治以降、街中の便利な交通手段として各地で市内電車、路面電車が開業しました。そのほとんどが自動車道路との併用軌道を中心に運用されています。しかし自家用車の普及による乗降客の減少に加え、道路交通の妨げとなることを理由に相次ぎ廃止され、現在、路面電車が残るのは札幌市や函館市、東京都、岡山市、広島市、熊本市、鹿児島市など全国19路線となっています。

 そのなかでも、“日本初”のLRTとして知られるのが、富山市内を走る路面電車です。もともとは鉄道路線だったものを、駅付近の経路変更や駅の増設を行った上で、路面電車に生まれ変わらせました。富山市は、鉄道やバスなどの公共交通機関を軸として、その沿線の徒歩圏(日常生活に必要な機能が集積したエリア)が結ばれた「コンパクトなまちづくり」をめざしています。そのリーディングプロジェクトとして、2003年にLRTプロジェクト(富山港線路面電車化事業)を開始し、富山駅から富山湾に面した岩瀬浜まで市街地の併用軌道と郊外の専用軌道を利用して運行しています。現在は、富山市内で路面電車などの運輸事業を手掛ける富山地方鉄道が運営しています。

 宇都宮市や富山市のように、LRTを軸に公共交通機関の充実を図る都市は希少です。しかし、路面電車が存続する地域では、環境問題や少子高齢化による人口減少を背景に、地球環境や利用者に優しい公共交通機関としてLRVの導入をめざす鉄道事業者が増えています。そのようなことから、国土交通省ではLRTの整備に向けた地域の取り組みを推進することを目的とした支援を行っています。同省では2005年度から「LRT総合整備事業」を開始、環境省でも「国土交通省環境行動計画モデル事業」において公募・選定されたEST(環境的に持続可能な交通)の実現をめざす先導的な地域に対して、関係省庁と連携した支援を行っており、富山市もその対象となりました。

 しかし、市街地の併用軌道を走行するLRTにとって、各地の路面電車を廃止に追いやった自動車交通との共存という課題は残されています。自動車依存の地域構造から脱却し、スマートシティやコンパクトシティと言われる街づくりを実現するためには、そこに住まう地域住民やそこで事業を支える従業員など、誰にとっても利便性の高い公共交通システムが必要であり、そのような理由からもLRTへの注目は高まっていくことでしょう。

地方都市を活性化するLRTの可能性

 宇都宮市のNCC構想をはじめとして、現在、日本全国の地方都市で住民が暮らしやすく環境に配慮した街づくり=スマートシティが注目され、実現に向けた検討が進められています。多くの地方都市では、少子高齢化やそれに伴う人口減少といった課題がある中、さらに自動車依存という問題を抱えています。そういった状況の中、暮らしやすい街づくりの重要な要素として、LRTをはじめとした人や環境に優しい公共交通システムの整備が不可欠となります。

 しかし、現状の公共交通機関に目を向けると、赤字ローカル線の多かった北海道だけでなく、全国各地で多くの鉄道路線が廃止されました。それは2000年代になっても続き、最近でも災害などからの復旧を断念し、廃止を余儀なくされる路線も少なくありません。 また、自家用車の普及に伴う乗降客の減少や地方から都市部への人口流入が進んだことで、そういった地域では鉄道に代わりバス輸送が台頭してきました。ところが今、そのバス輸送さえも山間部や地方都市だけでなく、大都市近郊でも廃止が取り沙汰されるようになっています。公共交通機関としてのバス輸送は、鉄道で補えない街中の乗降客輸送の利便性を高めてきました。現在、乗降客の減少に加え、運転手の高齢化と人手不足による採用難、燃料費の高騰などによる経営環境の悪化を理由に、行政の支援も届かず廃止や廃業を決めるバス会社もあり、路線の統廃合をしつつ自治体が運営資金を負担するケースも出てきています。

 現状の自動車に依存する交通システムも、エネルギー効率、環境、安全面で問題を抱えています。そのような中、エネルギー効率が良く、自動車交通量の削減にもつながる交通システムとして、LRTが今注目を集めています。LRT導入は、「人が移動しやすい街づくり」の観点で公共交通システムのあるべき姿を考え、自家用車、バス、自転車などの他の移動手段との連携による移動のネットワーク化を図ることが重要となります。スマートシティやコンパクトシティ化を進めながら住民サービスの向上を視野に入れ、公共交通機関全体としてモビリティ活用をどのように推進していくかは大きな課題となっていくと言えるでしょう。そして、その課題解決に向けた突破口として、LRTは大いに期待が寄せられています。

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