現在、地球温暖化がもたらす気候変動によって世界各地でさまざまな災害が起きています。とりわけ日本では台風やゲリラ豪雨などが頻発し、その対策が喫緊の課題ともなっています。今回は、日本だけでなく地球規模で発生している異常気象とその影響などについて解説します。
地球温暖化が与える台風への影響
地球温暖化による海面水温の上昇は、日本各地で異常気象を引き起こし、さまざまな影響を与えています。2024年夏も全国各地で猛暑に見舞われ、7月の平均気温は気象庁が1898年に統計を取り始めて以降、過去最高となりました。一方で、迷走する大型台風や線状降水帯による集中豪雨、また落雷の被害なども発生し、連日報じられました。
台風は海面水温の上昇により、大量の蒸気を含んだ上昇気流が起こることで生まれます。マリアナ諸島周辺やフィリピン近海などの熱帯域の海上で多く発生し、熱帯低気圧域内の最大風速が34ノット(およそ毎秒17m)以上になったものを台風と呼びます。台風の進路は発生当初、地球の自転の影響を受け西寄りに移動、太平洋高気圧の影響を受けて北上します。その後、日本に近づくと偏西風により日本の東海上で勢力を落とし、熱帯低気圧に変わるというのが通常の動きです。
ところが近年、太平洋高気圧の張り出しの強弱、偏西風の蛇行といった状況から、進路が定まらない複雑な動きをし、予測が難しい台風が増加しています。2024年の台風10号は、まさにその典型のような進路を辿りました。太平洋高気圧の張り出しに押され、かつ偏西風が北寄りに位置を変えていたため、関東から東北地方に向けて北上していた進路を西寄りに変え、“逆走”して九州を縦断。さらに四国から関西、東海を経て北上するという通常の動きとは異なる進路を辿りました。
過去にも、北上せず進路を変えながら南太平洋上でループを描いたケースや、2018年の台風12号のように北上し関東地方に近づいた後、東海から九州地方へ逆走し、東シナ海から中国大陸に進路をとったケースなどもあります。これらは、地球温暖化の影響によって熱帯域と極域の温度差が小さくなり、偏西風の勢力が弱まることが原因と考えられています。台風の勢力を落とす偏西風が弱くなれば、結果日本付近を通過する台風が勢力を維持し停滞、そして動きがさらに遅くなることにつながるというわけです。
このように複雑な進路を辿ることに加え、巨大化傾向も脅威となっています。日本近海の海面水温は過去100年で約+0.7~1.6℃上昇しており、これが巨大台風の増加に大きく関係していると考えられています。特に近年、大量の蒸気を含んだ雲がとどまることで、長時間にわたり大雨が降る状況が多くみられ、台風に限らず、大量の蒸気を含んだ雨雲が列となって停滞する「線状降水帯」の発生を引き起こしています。2018年7月に広島県、岡山県などを襲った集中豪雨では、初めて地球温暖化が原因とされ、それ以降も同じような被害が全国各地で発生しています。
世界各地で頻発する異常気象
日本だけではなく世界へ目を向けてみると、気候変動による異常気象が地球規模で発生していることが確認できます。近年、ヨーロッパでは夏に異常な高温に見舞われることが多く、2021年8月にイタリア南部のシチリア島カターニアにおいては、最高気温44.4℃を記録しました。また、2022年7月にスペイン南部のコルドバで最高気温43.6℃、続いてイギリス東部のリンカンシャー州コニングスビーで、同国の最高気温となる40.3℃を記録しています。この年に各地で異常な高温を記録した原因は、偏西風の蛇行により高気圧に覆われていたためと分析されています。
2021年はヨーロッパだけではなく、アメリカ合衆国南西部においても高温状態が続き、ユタ州ソルトレークシティで41.7℃、アリゾナ州フェニックスで47.8℃の最高気温を記録しています。また、同地域における2020年5月~2021年4月までの12か月の降水量は、1895年以降、最も少ない1年となるなど、高温に加えて極端な少雨にも見舞われました。一方、日本や東アジアでは大雨が相次ぎました。2020年8月には、中国・長江中流から下流にかけての地域で梅雨前線の活動が活発化し、6月~7月の2か月間降水量が過去24年間で最大となり、長江の氾濫により大きな被害が出ています。
高温・乾燥状態が続くことで懸念されることが山火事です。2023年にハワイ・マウイ島で発生した大規模な山火事では壊滅的な被害をもたらしたほか、カナダでは森林火災により約18.5万平方㎞が焼失し、1983年以降で最大の焼失面積になったと報じられています。カナダ北部やシベリアなどの森林地帯では乾燥が進んでいるとされ、落雷などによりひとたび発火すると、広範囲の森林に燃え広がるという脅威に晒されています。
異常気象に対する地球温暖化の影響については、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、2023年にまとめた第6次報告書で「世界の平均気温は2011~2020年に1.1℃の温暖化に達した」「今後1.5℃に達することで同時多発的なハザードが増大する」と警告しています。さらに、平均気温の上昇による異常気象は「現在観測されている影響よりも最大で数倍高い。気候変動に起因するリスクと予想される悪影響、および関連する損失と損害は、地球温暖化が進行するにつれ増大する」と報告しています。
異常気象を受け止め対策を
日本における台風や豪雨に対し、年々その被害が大きくなる傾向を感じている人も多いのではないでしょうか。2024年7月下旬に山形・秋田両県で発生した豪雨災害について、文部科学省と気象庁は「地球温暖化によって雨量が2割以上多くなった」との分析結果を発表しました。これは、気象研究所や大学などのチームが「イベント・アトリビューション」と呼ばれる、気象現象に対する地球温暖化の影響を図る手法で7月26日午前9時までの48時間雨量を解析したところ、山形県周辺の降雨量は地球温暖化の影響がないと仮定した場合より20%以上多かったと分析した結果によるものです。
2024年7月の全国平均気温が2023年同月を上回り、全国のアメダス地点で観測された猛暑日地点数の積算が2023年を大きく上回ったことも、雨量が増えた一因と考えられています。気温上昇により海面水温が上昇し、梅雨時から台風が発生、その影響などで豪雨や突風、また大気が不安定になり、局地的なゲリラ豪雨が全国で頻発しています。短時間の豪雨により、山間部では土石流やがけ崩れ、また河川周辺では氾濫や堤防決壊などのリスクが高まります。都市部においても、ゲリラ豪雨に伴うリスクとは無縁ではないと言えます。都市部の道路は雨が浸透しにくい舗装となっているため、大量の雨により水路と化し、さらには地中の下水道が溢れれば、冠水が起きる危険があります。国や自治体もこれらに対し、さまざまな対策を講じていますが、予想を超える降雨や突発的なアクシデントに、即時の対応が困難な状況が続いています。
しかし近年では、“人命優先の安心・安全”な対応も浸透しつつあります。台風をはじめとする自然災害などの発生時、混乱を最小限に抑えるべく鉄道などの公共交通機関が早くから計画運休を発表し一般化しています。また企業でも対策は進んでおり、例えば輸送事業者では配送を見合わせるなど安全を優先した対策を講じています。
今後、地球温暖化の影響による異常気象に向き合っていくためには、企業だけでなく私たち個人としても自然災害から命を守る行動を日頃から心に留めておく必要があります。それと同時に持続可能な社会の実現に向けて、一人ひとりが自然環境などに目を向け、毎日できることから始めてみることが、大切なのではないでしょうか。
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