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ビジネスコラム

災害大国日本の再構築~国土強靭化と防災庁の役割~

2026年05月27日

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災害リスクの高まりと社会インフラの老朽化が同時に進行する中、日本では防災・減災のあり方そのものが大きな転換期を迎えています。日本政府は国土強靭化を国家戦略として位置づけ、20兆円規模の中期計画や防災庁の創設など、新たな体制整備を進めています。今回は、国土強靭化を進めるにあたって直面する課題と最新施策、そして官民連携による持続可能な防災社会のあり方について考察します。

国土強靭化が直面する新たな課題

 近年、日本では地震や豪雨などの大規模な自然災害が頻発しており、社会全体のレジリエンス(強靭化)を高める必要性が一段と高まっています。特に東日本大震災以降、これまで経験したことのない規模の災害発生が現実的なリスクとして認識されるようになり、災害対策の拡充と質の向上が喫緊の課題となりました。

 こうした状況を受け、日本政府は2013年に国土強靭化基本法を制定しました。災害発生時に人命を守り、経済活動への影響を最小限に抑える「事前防災」を重視するとともに、老朽化した港湾設備、道路、橋梁などの更新を目的とした「緊急対策」を推進してきました。これらの施策は、「人命を何としても守り抜く」「行政・経済社会を維持する重要機能に致命的な損傷を与えない」「財産・施設への被害を可能な限り軽減し、被害拡大を防止する」「迅速な復旧・復興を可能にする」という基本方針に基づいています。さらに、2018年度からは重要インフラの機能維持に特化し、集中的に対応を進める「3か年緊急対策」、2021年度からは今後起こりうる大規模自然災害への備えを計画的かつ抜本的に強化する「5か年加速化対策」が実施され、国土強靭化に向けた取り組みが本格化しました。

 しかし、その一方で、大規模災害による深刻な被害は現在も続いています。2016年の熊本地震では家屋倒壊や橋梁崩落が相次ぎ、2018年の北海道胆振東部地震では、国内で初めてとなる大規模停電「ブラックアウト」が発生しました。さらに2024年の能登半島地震では、土砂崩れによる道路寸断が救助活動や復旧作業に大きな影響を与えました。これらは、地形条件やインフラネットワークの構造に起因する「地理的・構造的脆弱性」を浮き彫りにした事例といえます。

 また、災害時以外にも深刻な課題が表面化しています。2025年1月には、埼玉県八潮市で下水管の老朽化を原因とする大規模な道路陥没事故が発生しました。これは自然災害ではなく、インフラの経年劣化によって生じた「機能的脆弱性」が引き起こした事故です。現在、全国では橋梁やトンネル、水道管などの老朽化が進行しており、社会インフラの維持管理は重要な課題となっています。

 こうした「外的な災害リスク」と「内的な老朽化リスク」は、相互に重なることで被害をさらに拡大させる可能性があります。気候変動による災害の激甚化とインフラの老朽化が同時に進む今、従来の事後対応型の防災だけでは限界があります。今後は、潜在的な脆弱性を事前に把握し、先手を打って対策を講じる「予防型社会」への転換が求められています。

20兆円規模で進む「第1次国土強靭化実施中期計画」

 これまでの緊急対策の成果を踏まえ、国土強靭化をさらに加速させるために策定されたのが、2026年度から2030年度までの5年間を対象とする「第1次国土強靭化実施中期計画」です。本計画の事業規模はおおむね20兆円超とされており、堤防整備や上下水道の耐震化といったハード面に加え、災害予測システムの高度化や避難体制の強化など、ハード・ソフト両面にわたる326の施策が盛り込まれています。最大の特徴は、従来の「壊れてから直す」という事後対応型の考え方から脱却し、点検や補修を計画的に行う「予防保全型メンテナンス」へ本格的に転換した点にあります。これは、老朽化したインフラを長期的かつ効率的に維持するための重要な方針転換といえます。

 この計画は、大きく5つの柱によって構成されています。まず、第1の柱「防災インフラの整備・管理」では、省庁の枠を超えて水害対策を進める「流域治水」の推進が掲げられており、河川堤防の整備に加え、ダムの有効活用や遊水地の整備などを組み合わせることで、激甚化する豪雨災害への対応力を高める方針です。

 次に第2の柱「ライフラインの強靭化」では、広域支援を支える交通ネットワークの機能強化に加え、上下水道の耐震化や送電網の強化が計画されています。特に、大型発電所に依存せず、地域ごとに太陽光発電や蓄電池を活用して電力を確保する自立分散型電源の活用を推進することで、災害時にもエネルギー供給を維持できる体制づくりが進められています。

 さらに第3の柱「デジタル技術の活用」では、AIやドローンの活用に加え、TEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)の資機材充実など、防災分野におけるデジタル化が強化されます。また、SNSや地図アプリなど日常的に利用されるツールを災害対応にも活用する「フェーズフリー」の考え方を取り入れ、平時と災害時の情報活用を一体化する仕組みづくりも進められています。

 加えて第4の柱「官民連携の強化」では、住宅や建築物の耐震化に加え、保健・医療・福祉分野における支援体制の強化が盛り込まれており、行政だけでなく民間企業や地域団体と連携しながら、継続的な支援を実施できる体制の構築が推進されています。

 そして第5の柱「地域防災力の強化」では、災害や紛争の被災者が尊厳を保ちながら安心して生活できるよう、人道支援における国際的な最低基準である「スフィア基準」を踏まえた避難所環境の改善が重要なテーマとなっています。避難所となる学校施設などの耐災害性を高めるとともに、自立分散型電源の設置や、国による「プッシュ型支援」の分散備蓄を強化することで、発災直後の混乱期においても被災者のQOL(生活の質)を維持できる体制づくりが進められています。

 このように、「第1次国土強靭化実施中期計画」は単なる防災対策にとどまらず、老朽化したインフラを将来世代へ引き継ぐ「安全な社会基盤」として再生することを目的としています。20兆円規模の投資を戦略的に実行することで、日本社会全体の持続可能性を高めることが、この計画の本質的な狙いと言えるでしょう。

防災庁が担う「司令塔」としての役割

 「第1次国土強靭化実施中期計画」と並行して、災害対応の司令塔として期待されているのが、2026年11月1日に設置予定の「防災庁」です。これまで日本の災害体制は、内閣府の防災担当をはじめ、国土交通省、総務省、消防庁などがそれぞれの所掌分野ごとに対応してきました。いわゆる「縦割り行政」が課題として指摘されており、災害時の情報共有や意思決定に時間を要し、迅速な対応を妨げる場面も少なくありませんでした。

 新設される防災庁は、こうした課題を解消するため、内閣直轄の組織として平時から災害発生後まで一元的に防災・災害対応を統括する役割を担います。特に注目されているのが、他省庁に対して政策の改善や修正を求められる「勧告権」を持つ点です。これにより、省庁間の連携を強化しながら、予算配分や施策の優先順位において一貫性のある判断が可能となります。また、人員体制についても現在の約220名規模から350名規模へと拡充される予定であり、防災・危機管理分野における専門知識や実務経験を集約する体制づくりが進められます。さらに、2027年度以降には、南海トラフ地震や首都直下地震、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震が想定される地域を対象に、地方拠点を段階的に整備する方針も示されています。すでに30を超える自治体が誘致に名乗りを上げており、国・自治体・民間企業が連携した広域的な防災ネットワークの構築が本格化しつつあります。

 こうした組織改革の必要性は、近年の地震発生状況からも明らかです。2026年4月には青森県および北海道十勝地方南部で震度5強の地震が相次いで発生しました。今後、日本海溝・千島海溝沿いで巨大地震の発生リスクが高まる中、「後発地震注意情報」などの運用時には、迅速かつ一元的な情報発信がこれまで以上に重要になります。防災庁には、自治体や企業と連携しながら、混乱を最小限に抑え、実効性の高い避難行動へとつなげる中核機能が期待されています。

 一方、国土強靭化は行政だけで完結するものではありません。企業にはBCP(事業継続計画)の見直しやサプライチェーン対策が求められ、個人においても防災意識や生活設計のアップデートが必要となっています。AIやデジタル技術の進展により、防災は「特別な備え」ではなく、日常の延長線上で取り組む時代へと変化しています。災害を完全に防ぐことはできません。しかし、被害を最小限に抑え、社会全体で足並みを揃えて乗り越えていくことは可能です。官民一体で強靭な社会基盤を築くことこそが、日本の持続可能な未来を支える力となるでしょう。

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