前回は、世界、日本、自治体という視点から、スマートシティの動向を紹介しました。スマートシティの構築においては、企業も重要な役回りを担っています。しかし、ICTが進展する中で、その役回りや主要なプレイヤーに変化が起きようとしています。果たして、これからの街づくりにおいて企業はどのように位置づけられるのでしょうか。今回は、スマートシティと企業の関係性について考察します。
従来の「個別分野特化型」とは
日本では、2010年頃からスマートシティという言葉が頻繁に使われるようになりました。当初の中心は、エネルギー利用の効率化や、減災、交通の利便性向上といった「個別分野特化型」の計画でした。
特にエネルギー分野に特化したものが多く、2010 年には経済産業省が「次世代エネルギー・社会システム実証事業」として、京都府相楽郡の「けいはんなエコシティ」、福岡県北九州市の「北九州スマートコミュニティ」、神奈川県横浜市の「橫浜スマートシティプロジェクト(YSCP)」を選定しています。
これらの取り組みでは、ICTによって電力の需給を効率的に管理するエネルギーマネジメントシステム(EMS)などを活用し、環境に配慮した街づくりが目的となっていました。その推進を中心となって支えていたのは、電力会社をはじめとしたエネルギー分野の企業でした。
AIやIoTの普及が進む中で、従来のスマートシティを担う企業の顔ぶれも変化しようとしています。
プラットフォーマーの台頭
近年、スマートシティは、環境やエネルギー、交通、教育、医療といった複数の分野に幅広く取り組む「分野横断型」へと移行しつつあります。
分野横断型のスマートシティでは、IoTによって大量のデータを収集し、それをAIで効率的に分析・処理することで、都市が抱える課題を複合的に解決しようという試みがなされています。その中で、街づくりの主役として躍り出ようとしているのが、プラットフォーマーと呼ばれるIT系の大企業です。
前回の記事でも紹介したカナダ・トロント市の取り組みは、まさにその一事例で、世界的IT企業が、カナダの政府系企業と連携して進めているプロジェクトです。また、中国系のIT企業は、中国杭州市でビデオ映像から交通事故や渋滞を即座に認識し、警察、消防、救急の効率的な車両移動に活かしたり、映像の解析により緊急対応時間を短縮して公共の安全性を高めるといったプロジェクトを実施しています。
このような街づくりにおいては、各種データを保管・分析するためのデジタルプラットフォームを構築。そこで、都市の状況をリアルタイムに把握し、高精度なシミュレーションを実施することで様々な課題解決に取り組みます。デジタルプラットフォームはプラットフォーマーだけでなく、国や自治体が企業と連携しながら構築するケースもあります。
企業間の連携がカギに
AIやIoTを原動力に、街づくりがより広範囲かつ大規模になるとともに、その市場規模も拡大を続けています。
あるレポートでは、スマートシティ関連IT市場だけで、2018年における世界での総支出額は約8兆円あり、2022年には16兆円と倍増すると予測。国内だけでも、2022年市場規模は 9,964億円に達するとしています。その中で、スマートグリッドや固定監視画像データ解析、インテリジェント交通管制、スマート街灯といった新たな技術やサービスが誕生することが期待されています。
スマートシティには、大きなビジネスチャンスが眠っています。非常に多くの分野が関連し合っているため、多くの企業に参入のチャンスがあると考えられます。そのためには、様々な企業間の連携が必要になってきます。
日本企業が連携し、海外のスマートシティ構築に貢献している事例もあります。ある企業は太陽光発電を手掛ける企業とともに、ドイツのシュパイヤー市でスマートコミュニティ実証事業に参加。太陽光発電量、電力・熱消費量といったデータと天気情報サービスを自動解析して需給を最適に管理し、太陽光で発電した電力を地産地消する「自己消費モデル」の確立を目指しました。
このように企業間や自治体とのパートナーシップを形成することにより、スマートシティは企業にとって大きなチャンスとなり得ます。自社の得意分野で、街づくりに貢献できるものはないか検討をしてみてはいかがでしょうか。
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