働き方改革を推進する上で、働く場であるオフィスのあり方が問われています。オフィス環境を見直すことで、生産性や従業員の満足度を向上しようという企業も少なくありません。そうした企業の間で、近年注目されているのが、従業員とオフィスの間に新しい関係をもたらす働き方「アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)」です。働き方改革を推進するABWには、一体どのような魅力がるのでしょうか。その魅力について解説します。
ABWと従来型オフィスの違い
ABWとは、「執務内容に合わせ、従業員自身が最も適した場所を選ぶ」という働き方です。例えば、集中したいときは個室で、同僚と情報交換が必要なときにはオープンスペースで、と内容に合わせて場所を変えます。こうした新しい働き方が注目される背景には、ビジネス環境の変化があるようです。
もともと日本企業の多くでは、部や課という組織単位にもとづいたオフィスデザインが採用されてきました。組織長が部下を管理しやすいように島型に配置されたデスクは、その最たるものでしょう。そこでは、一人ひとりの席が固定されているのが一般的です。席を固定することで、定型的な仕事を効率的に処理したり、チーム内のコミュニケーションを高めることができます。
しかし、技術革新やグローバルにおける企業間競争の進展などにより、ビジネス環境が目まぐるしく移り変わる中で、仕事の質も変化しています。また、ICTの普及に伴い、チャットや会議システム、テレビ電話といったツールが次々と登場し、場所が離れていても円滑なコミュニケーションが取れるようになっています。
そのため、これまでのように場所に縛られることなく、最適な執務環境を選択することで従業員の生産性と満足度を高める、ABWに注目が集まっていると考えられます。
欧米におけるABWと日本のABWの現状
ABWは欧米で生まれた働き方であり、先進的な企業を中心に導入が進んでいます。近年、日本においても徐々に導入企業が増加していますが、欧米とは異なる捉え方をしているケースも少なくありません。
大きく異なるのは、ABWにおける執務環境の範囲です。日本では、フレックスタイムやリモートワークと比べ、ABWの普及はまだこれからという段階にあり、働き方の変革はまだオフィスを基本に進んでいるのが現状です。
一方、欧米のABWでは、社外の環境も含めて自由に働き場所を選べるのが主流となっています。
例えば、家族との時間を大切にしたいというときは自宅勤務をしたり、旅行や趣味に合わせたライフスタイルの中で仕事をするといった、働く時間や場所に縛られない働き方も珍しくありません。
欧米企業の多くは成果主義のもと従業員に対して、成果さえ出せば比較的自由な裁量を認めています。そのため、ABWにおいて自由度が高くなっており、個々の従業員が自身にとって最も生産性の高い執務環境を選択しています。
それに対し、日本企業では組織の輪が尊ばれるため、どうしても社員間の緊密な距離が重要視されてきました。しかし、ABWの普及が進めば、オフィス中心の執務環境が、社外へと広がりを見せていくことでしょう。
自由な働き方が従業員の意識を変革する
ABW本来の働き方を実践することで、企業にはもちろん従業員に対して意識の変革を促します。
従業員が働く場を自由に選択するという行為は、仕事のやりがいや充実感の醸成につながり、会社に対する満足度を大きく向上させることでしょう。また、選択権や決定権を与えることで、従業員の自発性を育てることも期待できます。そうした取り組みを社内外に向けてアピールすることで、離職防止や人材採用といった面でも効果が見込めます。
従業員一人ひとりの最適なワークライフバランスを保つことも可能になります。子育てや介護を行う従業員に、より働きやすい環境を提供することで、ダイバーシティの推進にもつながります。
ある企業では、オフィスの移転をきっかけにABWを導入したところ、様々な効果があったといいます。社内調査をしたところ、8割近くの社員が生産性の向上を実感し、部門間のコラボレーションが3倍になっていました。それだけではなく、オフィス面積を約2割、電力消費量を約2.5割削減。加えて、オフィスの見学者数が2万人を超え、企業ブランディングの観点からも大きな効果があったといいます。
事例からも分かるように、ABWは、働き方改革を推進するためにも、さらなる経営力強化を図るためにも、強力なツールとなり得るものです。また、今後日本においても欧米のような働き方がABWによって浸透されることも期待されます。執務環境を見直す際には、ABWの視点を取りいれてみてはいかがでしょうか。
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