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EVシフトで鮮明になる「動く蓄電池」としての可能性

2020年10月28日

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 近年、自動車メーカーがEV(電気自動車)の新モデルを次々と発表しています。これまでにもEVのブームは何度かありましたが、盛り上がりは一時的なものでした。しかし、今度は様相が違うようです。その背景には何があるのでしょうか。今回はその真相を探るととともに、EVが普及することで電力システムや社会インフラ、企業経営に与える影響について考えます。

各国の規制によって鮮明になるEVシフト

 電力を使ってモーターで車輪を駆動するEV(電気自動車)は、現在何度目かのブームを迎えています。

 第一次ブームが起きたのは、1970年代のことでした。2度にわたるオイルショックにより、石油への依存が問題視されるようになったのです。さらに、工業化が進んだ各国の都市部では大気汚染が深刻化し、EVへの関心が一時的に高まりました。

 1990年代には、アメリカ・カリフォルニア州でZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)法と呼ばれる厳しい環境規制が設けられます。これは、州内で一定台数以上の自動車を販売するメーカーに、EVをはじめとした環境負荷の少ない自動車を一定比率以上販売することを義務付けたものです。ZEV法をきっかけに、自動車メーカーが次々とEVを市場に投入していきました。ただ、価格が通常の自動車より高く、販売はそれほど振るいませんでした。

 2000年代に入ると、環境問題に対する意識が高まる中で、改めてEVが注目されるようになります。また、携帯電話の普及とともに、EVの動力源となるリチウムイオン電池の性能が飛躍的に向上。リチウムイオン電池が小型大容量化することで、EVの普及が現実的になったのもこの頃です。

 さらにここ数年の電気自動車は、「EVシフト」と呼ばれる大きな動きを見せています。その背景にあるのは、世界的な規制強化。ヨーロッパでは、気候変動対策の視点から、内燃機関を用いた自動車を禁止する時期を各国が続々と公表。例えばイギリスは2040年までにガソリン・ディーゼル車の販売を禁止するとしています。中国も2019年から新エネルギー車(NEV)規制を導入しています。これは、自動車の全販売量のうち一定比率に、EVなど新エネルギー車の販売を求める内容となっています。

 ガソリン車・ディーゼル車からのシフトが明確になる中で、自動車メーカーもEVに注力するようになっています。ある調査では、世界のEV市場は2040年に約5400万台となり、新車販売の58%にまで拡大すると予想しています。

バッテリー性能向上と充電設備の充実、低価格化が普及を後押し

 EVはこれまで何度もブームを繰り返してきましたが、価格や走行距離、充電設備がネックになって普及が進まなかった過去があります。現在はどうなのでしょうか。

 走行距離については、バッテリー性能の向上や電気を効率的に利用する技術の開発が進んでおり、現在では多くの車種が1回の充電で200~600km走行できるようになっています。トラックやバスなどの大型車は大量の電気が必要になるため、EVは不向きだと考えられてきましたが、バッテリーの大容量化などによって商用化が近づいています。

 充電設備もここ数年で急増しています。現在、日本には1万8000カ所以上の充電スポットがあります。高速道路のサービスエリアや幹線道路沿いの道の駅、さらにコンビニエンスストアやスーパーマーケットの駐車場にも設置されるケースが増えており、移動先でも充電設備を探しやすくなっています。

 価格面から見ると、EVの価格設定は、ガソリン車と比べて高めです。ただし、今後は低価格が進む見通しです。EVの価格のうち、40%以上をバッテリーが占めているといわれていますが、EVの販売台数が増えるに連れ、スケール効果によってバッテリーのコストは急速に下がっているのです。2010 年から、2017 年にかけてバッテリーのコストは79%下落したというデータもあり、EVの価格はガソリン車に近づいていくことでしょう。

 このようにEVが実用的かつリーズナブルになることで、普及に弾みがつくと考えられます。また、EVの普及をサポートするために企業が集まった国際的なイニシアチブもあります。それが「EV100」です。

 EV100とは、企業による電気自動車の使用や環境整備促進を目指す国際イニシアチブです。EV100は、再生可能エネルギーの普及を促進する「RE100」、事業のエネルギー効率を倍増させる「EP100」を主催する国際環境NPOにより、2017年9月に発足しました。EV100に参加するためには、「2030年までに加盟企業が事業で利用する全車両をEV化する」とい目標に取り組まなければいけません。現在、世界の大企業69社が参加しており、日本からも5社が参加しています。

「動く蓄電池」として社会インフラを担う

 EVの普及は、温暖化対策をはじめとするエネルギー問題にも大きな変化をもたらすと考えられています。

現在、EVには外部に電力を供給する機能が備わっています。EVに蓄えたエネルギーを家庭で使用することを「V2H(Vehicle to Home)」といい、このV2Hと太陽光発電システムを組み合わせることで、電気代の削減に貢献できます。太陽光発電システム(4kW)とバッテリー(20kWh)の組み合わせで、1 年間の家庭の消費電力(4,980kWh)と EV走行(約1 万㎞)に必要な電力の59%を賄えるという試算もあります。

 V2H に対して、EVに蓄えられた電力を大手電力会社が管理する電力網に供給する技術は「V2G(Vehicle to Grid)」と呼ばれています。現在、太陽光や風力など、再生可能エネルギーの導入が各地で進んでいますが、太陽光や風力の発電量は天候に影響されるので、悪天候などによって出力が大きく変動する可能性があります。出力の変動は、電力の品質に影響し、最悪の場合、停電などの原因にもなりかねません。そこで、再生可能エネルギーの発電量が潤沢なときに電力をEVに蓄電し、必要なときにEVから電力網に電力を供給することで、安定的に電力システムを運用することも考えられています。

 例えば、日本の離島では、EVを、再生可能エネルギーと組み合わせて送電網の代わりに活用する実証実験が行われています。

 このようにEVは新たな自動車という側面だけでなく、社会の新たなインフラとしても期待されています。バッテリーの低価格化と高性能化、そして充電設備の充実、EV100に代表される企業や各国政府の後押しによって、EVの普及は今後加速する見込みです。EVが「動く蓄電池」として社会インフラを担う日は、すぐ近くまで来ているのです。そして環境負荷の少ない企業経営について考えるときも、EVは今後ますます重要なキーワードになっていくはずです。

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