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新しい働き方が日常を変容させる「2024年問題」とは

2024年1月24日

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 2019年4月、働き方改革の一環として労働基準法が改正され、時間外労働の上限が規定されました。しかし、流通・建設・医療業界については業務の特殊性により、時間外労働の上限適用に5年間の猶予期間が設けられています。2024年3月31日にこの猶予期間が終了となることで、2024年4月1日以降発生すると言われている「2024年問題」について、その背景や影響などを解説します。

「2024年問題」の背景

 2019年4月に施行された改正労働基準法では、時間外労働が「月45時間・年360時間」と定められました。しかし、ある特定の業種では5年間の猶予期間が設けられ、上限規制の対象とされていませんでした。対象となる、流通・建設・医療業界では、長時間にわたる労働や勤務がやむを得ず必要であったり、定期的な休日が取得しにくいなど、業種特有の事情があったためです。

 「2024年問題」において、それぞれの背景に目を向けると流通業ではドライバーの高齢化と人手不足が挙げられます。厚生労働省の「令和3年賃金構造基本統計調査」によれば、全産業の平均年齢が43.4歳なのに対し大型トラック運転手は49.9歳、中型トラック運転手は47.4歳といずれも平均年齢を上回り、しかも年々高くなっていく傾向にあるとしています。また、同調査での全産業における49-59歳の割合が33.8%なのに対し、流通業では45.3%と高く、また逆に29歳以下の全産業割合が16.5%のなか、流通業は10.0%と低くなっています。つまり、高齢化が進む一方で、若年層の就業が進まないという実態がわかります。これは、長時間労働といった過酷な勤務状況が一因だと考えられています。

 また、建設業も人手不足の渦中にあります。昨今での資材や燃料価格高騰、さらには人件費上昇の影響も加わり、予定した工費が厳しくなるケースも出てきています。地震や台風など頻発する自然災害でダメージを受けた建物の復旧・事後対策、街の活性化に向けた都市の再開発、加えて2025年には大阪・関西万博も控え建設需要は拡大基調ですが、それに充当できる作業員の確保やコスト上昇にどう対応していくか課題は少なくありません。

 医療業界も医師が長時間労働を強いられている状況です。その要因は、治療のみならず記録作成など多岐にわたる業務や夜間勤務などの勤務体系が挙げられます。また今後における医療ニーズの変化や高度化など、少子化に伴う医療従事者の減少が進む中で、医師個人に対する負担がさらに増加することが予想されています。

 過剰な労働を防ぐ手立てとして、流通業では1か月の拘束時間が休憩時間を含む293時間以内と定め、建設業では中小企業において、60時間を超える法定時間外労働の割増賃金率を25%から50%への引き上げ、医療業界では一部ICTツールを導入する、などの手段が講じられてきました。

新たな働き方が生み出す影響

 こうした手立てを講じていても人手不足という課題を解決できないまま、改正労働基準法の猶予期間が終わる2024年4月1日より、「月45時間・年360時間」の時間外労働規制が実施されることになります。例えば流通業では、時間外労働規制が実施されることで不足する輸送能力の割合は2024年14.2%、2030年には34.1%となり、不足する営業用トラックの輸送量数(t)は2024年4.0億t、2030年9.4億tに達すると試算されています。

 このようなことから、私たちの生活にも大きな影響が及ぶと考えられています。新型コロナウイルス感染症の流行以降、ネット通販の需要が拡大し「翌日配達」は一般化しています。地域によっては「当日配達」などを謳い文句にするケースもあります。そもそも配達してくれるドライバーがいなければ、そのサービスは成り立ちません。これまで「翌日配達」のみならず「送料無料」といったサービスを提供してきた流通事業者も、ドライバー不足で配達できないといったことになれば、サービスそのものを見直す必要が出てくるでしょう。

 大手ネット通販企業が扱う商品の配達サービスから、大手の宅配輸送事業者が撤退したのも物流の多さに人手が追い付かないことが理由とされています。流通事業者の場合、大手といわれる企業は少なく中小企業が大部分を占めています。そのような状況で人手不足のなか限りある人的資源で事業を運営している流行業にとって、荷主からの更なる輸送費削減を求められるようなことがあれば長時間労働を招き、新たな経営課題となることは容易に想像できます。

 2024年4月1日以降の時間外労働の上限規制は、年間時間外労働時間の上限の設定により、労働環境を改善することが狙いであり、業務や意識改革の良いきっかけとなるように思われます。しかし、この法施行によって、各事業者は企業や一般消費者の需要に対応できなくなると言われており、社会に大きな影響が生じることが予想されています。また、別の視点から見ると労働時間の減少は収入に比例するため離職に繋がり、さらなる労働力不足を生み出す可能性もあります。これが「2024年問題」なのです。

それぞれの立場で向き合うべき「2024年問題」

 現在、「2024年問題」は避けては通れない差し迫った課題として対処していかねばなりません。流通業においては具体策として、高速道路の制限速度をトラックは80㎞/hのところを、90㎞/h~100㎞/hに引き上げて、時間あたりの走行距離を伸ばすことや途中のSA・PAなどで別の運転手にリレーする案、長距離輸送はより環境に優しい海上や鉄道輸送へとシフトさせるモーダルシフト、DX推進では、1台のトラックの後ろに自動運転のトラックを追走させる「カルガモ走行」など、様々な取り組みが検討されています。

 建設業では問題改善のためにデジタル活用、DXの推進が求められています。設計段階ではデジタルツイン(現実の世界から収集したデータを、コンピューター上で再現する技術)の活用により工事の効率化が検討されています。また、日本でも徐々に導入が進んでいるドローンを活用した現場監視、さらにはAIの導入により生産性向上と作業員の労働時間削減をめざす取り組みが始まっています。

 医療業界では患者の状態を監視できるモニタリングシステムや電子カルテ管理システムなどのICTツールの導入、医師の業務の一部を看護師などへ移管させて医師の負担を軽減させるタスクシフティングが検討されています。また、勤務状況を改善するための勤怠管理システムの導入、時短勤務などといった柔軟な働き方の採用により、休職していた医師の再勤務支援の検討が進んでいます。

 このように「2024年問題」を取り巻く状況を乗り越えるためには、各事業者が業務の効率化などを図ることで、様々な課題を解決していく必要があります。常態化する長時間労働の改善、賃金や待遇などの就労問題、またそれら要因による若年層からの就労離れなどに対応していかなければ、これからさらに経済活動や日常生活に甚大な影響が生じる可能性があります。しかし、この「2024年問題」は、流通・建設・医療業界だけに負担を強いるだけでなく、当事者意識を持って考えなければなりません。例えば、注文する側の企業も現実と向き合い、適正な条件とコストを検討する必要があります。また、私たち一般消費者も自己都合だけで行動するのではなく、日々の生活を営む上で欠かせないサービスを提供している人々へ注目し、相互的な理解を深めることが重要になります。「2024年問題」を乗り越えるためには、社会全体で負担を共有し協力する姿勢が今求められているのではないでしょうか。

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