2020年初頭から始まった新型コロナウイルス感染症拡大による影響は、私たちの日常生活に様々な変化をもたらしました。リモートワークやオンラインミーティングの普及、そしてレジャーでは、人との接触を避けるアウトドア志向が高まり、キャンプやゴルフなどを楽しむ人が増えたと言われています。今回は、いわゆる「三密」回避で人気となった屋外アクティビティの現状について解説します。
コロナ禍を経て変化した日常生活とレジャー
新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策は、2020年4月の緊急事態宣言から本格的に始まり、2023年5月の5類感染症移行まで長きに亘って続いた結果、私たちの日常生活は大きく変わりました。人との接触を極力控える行動が推奨され、人々が集まる観光地などへの外出自粛、海外や国内からの渡航制限などによって旅行業へ大きな影響を与えたほか、個人の購買行動は直接店舗へ足を運ぶのではなく、ネット通販を利用して購入する消費者が増加しました。現在では、渡航制限が解除され、日本政府観光局発表によると、2023年の訪日観光客数は2,507万人と前年の6.5倍に拡大、出国する日本人数も962万人と前年の3.4倍にとなり、旅行業はコロナ禍前に戻りつつあります。また、ネット通販によるECビジネスも引き続き大きく伸長しています。私たちの身近なところではリモートワークの普及、それに加え社内や取引先とのミーティングをオンラインで行うことが一般的になりました。
このような動きの中、コロナ禍のいわゆる「三密」回避で人気となったのが、マリンレジャー、キャンプ、ゴルフなどの屋外アクティビティです。なかでも、意外な伸びを示したのがマリンレジャーです。日本は、欧米豪などに比べマリンレジャー人口が少ないと言われてきました。しかし、一般財団法人 日本海洋レジャー安全・振興協会が公表する小型船舶操縦士試験合格者数の推移をみると、2019年までは年間5万5,000人から5万7,000人規模で推移していたものが、2020年は年間7万1,975人に、さらに2021年は年間7万4,575人までに増加しています。2022年に減少に転じますが、それでも2019年以前を上回る6万670人でした。
コロナ禍では数多くの海水浴場が閉鎖されていましたが、ボートを使ったマリンレジャーは「三密」を回避しながらの航走や釣りが楽しめることから人気を集めたと考えられています。しかし、船舶は小型でも普通自動車ほどの大きさがあり、自宅で保管できる人は限られています。もちろんレンタルなどのサービスもありますが、マリンレジャーの盛んな欧米豪では、富裕層だけでなく、海辺や湖畔に住んでいる一般の人でもボートを保有しているケースが少なくありません。今後、日本での普及を加速させるためにはボートを保有するインフラの整備が喫緊の課題と言えるでしょう。
楽しみ方の多様化が進むキャンプ
マリンレジャー同様「三密」を避けて楽しめるレジャーとして、キャンプや登山などの屋外アクティビティにも注目が集まりました。民間調査機関が2023年に行ったアウトドア用品・施設・レンタル市場規模に関する調査によると、2020年度は3,983億5,000万円。2022年度は4,536億7,000万円、2024年度予想は5,023億円、2026年度予想は5,274億6,000万円になると公表しています。コロナ禍以降もブームとして定着しており、リモートワークによる時間の有効活用やワーケーションへの注目などで、自然に触れたいというニーズが高まったと考えられています。そのような状況から、自治体や民間企業ではリゾート地などにインターネット環境を整備した施設をつくり、ワーケーションニーズを後押しする取り組みを積極的に行っています。
また現在では、もっと手軽にキャンプを楽しみたいというニーズを受けて「グランピング」がブームになっています。グランピングは、施設側が用意した大型のテントを使用するため、利用者はテントを張る手間が掛からず、また食材や調理器具のレンタルも料金に含まれているため、まさに「手ぶらでキャンプ」を楽しむことができます。さらに、多くの施設は広いテントの中に人数分のベッドやソファー、薪ストーブなどを完備しているなど、とにかく手軽に、かつ快適にキャンプができる点が特徴です。
「手軽に」という点ではオートキャンプのブームも定着しています。一般社団法人 日本オートキャンプ協会がまとめた「オートキャンプ白書」によれば、2020年はコロナ禍によりキャンプ場が閉鎖された影響などで、オートキャンプ場参加人口は610万人にとどまったものの、2021年は750万人に急増しました。2022年は650万人と減少しましたが、1年間の平均キャンプ回数は5.4回、平均泊数は7.2泊とともに過去最高となったと言います。この結果について同協会は「特別なレジャーではなく、気が向いたときにファミリー、あるいはソロなどそれぞれのスタイルで出かける身近なレジャーとなった」と説明しています。
コロナ禍以降、ソロキャンプ人口が増えた点も特徴的です。テレビや動画配信サービスなどを通じ、著名人がソロキャンプ=ひとりぼっちキャンプをする番組が登場するなど、男性だけでなく女性もソロキャンプを楽しむようになってきたことが後押しになっているとも言われています。
若年層の概念を変えたゴルフ業界
コロナ禍以降、アウトドアスポーツの中で人口が増加したと言われているのがゴルフです。「三密」を避け、かつ感染拡大を防ぐ物理的な距離を保ちながら楽しめるスポーツとして注目されました。さらに著名人によるゴルフ動画の配信や人気アパレルブランドの参入など、ゴルフに興味を持つ若年層やウエアを楽しむ女性が増えたことも要因とされています。一方で、プレースタイルも多様化しており、日本では珍しい休憩を挟むことなく18ホールをプレーする「スループレー」枠を設けたゴルフ場もコロナ禍で多くなりました。また、プレー時の服装で入場を推奨し、フォーマルなドレスコードを廃止するなど、これまでのゴルフ概念を払拭する取り組みも行っています。このようなことが、女性を含めた若年層へのゴルフに対する概念の変化に影響を与えたかもしれません。
経済産業省の特定サービス産業動態統計調査によれば、コロナ禍の真っただ中にあった2021年度のゴルフ場売上高は952億5,900万円(うち利用料金収入合計673億7,900万円)でしたが、2022年度は1,030億7,400万円(同734億8,500万円)、2023年度は1,055億9,900万円(同753億円)と伸び率は高くないものの、増加傾向を公表しています。一方、利用者数は、2021年度1,028万9,775人(うち会員合計320万6,819人)、2022年度は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などの緩和があったことから1,057万6,216人(同313万9,693人)と増加、2023年度1,044万3,511人(同304万4,274人)とコロナ禍を過ぎて微減という状況を公表しています。
ゴルフ人気の要因を別の角度から考察すると、数年前から1998年生まれの黄金世代や2000年生まれのプラチナ世代と言われる若手女子プロゴルファーの活躍もあり、コロナ禍ではツアースケジュールが大幅に変更されてはいたものの、女子プロツアーは空前の人気を博し、ブームは現在も続いています。国内ツアーに関しては、女子プロに押され気味の男子プロツアーですが、松山英樹プロが大学の先輩でプロキャディーとして経験豊富な進藤大典氏とタッグを組み、PGAツアー初優勝を果たしたのが2014年、それ以降海外ツアーへの注目が高まりました。2024年2月のUSPGAツアーでは松山英樹プロが2年ぶりに優勝、DPワールドツアーも星野陸也プロが優勝するなど、日本人選手が素晴らしい結果を残しています。
レジャー市場はコロナ禍以降、大きく変化しています。しかし、その中でも依然として、キャンプやゴルフなど屋外で楽しむアクティビティまたはスポーツが注目され続けています。「三密」を避けることを目的とした一過性のブームに終わるのではなく、今後も数ある楽しみ方の一つとして、私たちもそれらを活用しながら心身の健康を維持していくことが必要になっていくのではないでしょうか。
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