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進藤大典氏に聞く①「ゴルフは自分を見つめ直すきっかけを与えてくれる人生の先生」

2024年7月17日

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 進藤大典氏は、松山英樹プロのキャディーを6年半にわたって務め、PGAツアーで勝利を重ねたことで国内外のゴルフファンだけでなく、多くの人に知られる存在となりました。キャディーを退いた後は、自ら起業しスポーツマネジメントやジュニアゴルファーの育成に取り組むなど、これからの日本ゴルフ界をけん引する一人と言えます。今回は、プロキャディーとしての歩みを振り返っていただくとともに、試合中におけるセルフマネジメントについて伺いました。

【プロフィール】
進藤 大典(しんどう だいすけ)
1980年7月生まれ。明徳義塾中学時代にゴルフを始め、明徳義塾高校を経て多くのプロゴルファーを輩出する東北福祉大学に進学。2003年から宮里優作プロの専属キャディーとして帯同。その後は、大学の先輩である谷原秀人プロ、片山晋呉プロなど多くのトッププロのキャディーを務める。2013年、松山英樹選手のプロ転向とともに専属キャディーに。現在は出身地の京都府舞鶴市に「ミュアフィールドヴィレッジ株式会社」を設立し、スポーツマネジメント業を手掛けるほか、ゴルフ中継の解説や講演など活躍の幅を広げている。

宮里優作選手との出会いが人生の転機に

――進藤さんは松山英樹プロとの活躍により、日本一のプロキャディーとして多くのゴルフファンに知られる存在です。そもそもなぜプロキャディーになったのでしょうか。プロキャディーになったきっかけを教えてください

 明徳義塾中学時代にゴルフに出合い、明徳義塾高校でゴルフに打ち込み、「あわよくばプロになれれば」という想いで、東北福祉大学のゴルフ部に入部しました。そこで同期の宮里優作選手のプレーを目の当たりにし、プロで活躍できるのはこういう人だと気づかされました。そういう意味では、宮里選手が私のゴルフの運命、人生に転機を与えてくれた一人だと思っています。勘違いをしてプロゴルファーをめざそうと、いつまでも執着しなくてよかったので、それはラッキーなことだったかもしれません。

 ある時、宮里選手から「大ちゃん暇そうだね。キャディーやってよ」と言われ、軽いノリで「いいよ」と返答したことが始めるきっかけになりました。宮里選手はアマチュア時代から数多くの試合に出ていたので、彼のキャディーになれば部活を休めるかもしれないという思惑と、彼とは気が合うこともあり友達感覚で楽しくバッグを担いでいました。そんな宮里選手は、アマチュア時代にプロの試合に出場し「7試合連続予選通過・トップ10以内」という今でも破られていない記録の持ち主です。

 大学4年生の時に、宮里選手から「今年の冬にプロ転向を考えているので、キャディーとして一緒に来てほしい」と真剣に頼まれました。私自身、友達感覚で始めたキャディーでしたが、ゴルフを戦略的に考える、選手をサポートするといったキャディーの役割に徐々に面白味を感じると同時に、この仕事を続けていきたいと思い始めていた時期だったので、迷わず専属キャディーになることを決めました。

 3年間専属で宮里プロのキャディーを務めましたが、その間1度も勝つことができませんでした。宮里プロは、プロ転向後「すぐに勝つ」と期待されていたので、キャディーとして力不足を痛感し、この仕事を30歳までにやめようと考えていた時期もありました。そう悩んでいた時、宮里プロの専属キャディーをこのまま続けていてもお互いのために良くないと考えるようになり、3年目が終わりオフシーズンへ入る前にコンビ解消を提案したのです。その際、プロキャディーとして勉強し直し、いつか宮里プロに貢献できるキャディーになるという自分の想いも伝えました。

 その後、大学の先輩にあたる谷原秀人プロに声をかけていただき、3年間キャディーを務めました。宮里プロとはチャンスに恵まれながらも勝つことができなかったので、自分が谷原プロのキャディーを務め優勝できるのだろうか、という不安がありました。そんな私の気持ちを察したのか、谷原プロは「俺が勝たしてやるよ」と言ってくれましたね。第二の地元である仙台の試合で初めて優勝を経験させていただき、そこから全英オープン選手権やマスターズ・トーナメントなど世界の舞台を見せてもらいました。

事前の準備と緻密な戦略で試合に挑む

――キャディーの仕事は、バッグを担いで回るだけでなく、試合前に入念なコースをチェックしながら戦略を立てるなど、想像以上に大変そうですが、実際はいかがでしょうか

 よく「4日間バッグを担いで大変だね」と言われますが、実際は、月曜日から水曜日までの期間にラウンドしながらコースチェックを行うので7日間になります。トーナメントは毎週違う場所で開催されますし、芝の種類もさまざま、気候・気圧なども異なるため、事前に入念なチェックが必要になります。例えば同じ選手でも、状況が変わることで同じ7番アイアンでも160ヤードや190ヤードと飛距離に差が出ます。プロと言えども場所や芝によってそれだけの違いが出るのです。プロは3ヤードを打ち分けられないとメシが食えないと言われますが、毎週毎週、毎日毎日チェックしながら「今週は標高が高いから少し飛ぶな」「雨が降っているからキャリーだけ、ランは出ない」など、さまざまなことをインプットしていきます。過去のピンポジションを3年くらい前まで遡り、優勝するときの予想スコアや、風向きが一週間でこの時期は北風からしか吹かないなど、色々な角度から分析し戦略を立てていくのです。

 特にグリーンは、速くは見えないのに実際は速いことや、芝目があるのにどちらに切れるか分からないことなどがあるためチェックがとても重要になります。中でもマスターズ・トーナメントと全米オープン選手権のグリーンは他と比較にならないほど難しいです。マスターズ・トーナメントを行うオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブのグリーンは「もう止まらない」という感覚になってしまうほどです。少し触った瞬間に5メートル、10メートルと転がってしまうので、グリーン上にいながら高所恐怖症の感覚に陥ります。あのグリーン上のボールが転がる速度の速さは、恐怖以外の何物でもないので、選手とキャディーはいつも以上に慎重になります。

 そのようなこともあり、練習日にはボールをグリーン上のあらゆる場所から転がしてみます。転がすうちに徐々に感覚を掴んでくると、転がす前に「これくらい切れるかな」「カップ2つくらいかな」といった予想が的中し、それが自信につながるわけです。

――プロキャディーとして多くのトッププロと歩んでこられました。4日間ラウンドする中で、選手とはどのようにコミュニケーションをとられてきたのでしょうか

 コースを歩きながら話している内容は、このホールはどう攻めるか、明日のピンポジションだったらどう打つか、などの戦略に関する内容のほか、緊迫する状況下で気持ちを切り替えるために夕食を何にしようか、などといった他愛もない話をすることもあります。片山晋呉プロの時は、1日3つの話題を用意するよう言われていました。ボギーを叩いた時にその話を披露し、片山プロは気持ちを切り替えられていたようです。毎日の話題探しに苦労したのも今となってはいい思い出です。

 一日一日をどう攻めるか、どう守るか、という点では、軸となるマネジメントがあります。例えば、マスターズ・トーナメントなら4日間に切られるピンポジションが予め分かっているので、それに対して風、天気を踏まえたうえで、その日のピンポジションからスコアはこれくらいだろうと予想します。それを4日間トータルで考え、そこから一日一日にさらに1ホール1ホールに逆算し、このホールは攻める、このホールは攻めないということを考えます。
 また、過去の試合内容も確認し、例えば、つま先下がりの4番アイアンで左ピンの時に先週はそこからバーディー、イーグルが取れたなどのデータも把握しておきます。違うコースだったとしても、同じようなシチュエーションにあたった場合、選手は当然良いイメージを持っています。反面、選手が悪いイメージを持っていることもあるので、選手がその時々でどのようなイメージを持っているのかキャディーとして理解しておく必要があります。

「想定内のミスはOK!」の気持ちで

――選手が調子のいい時、反対に調子を落としている時など、キャディーとしてどのようなサポートが求められるのでしょうか

 そのサポートは結構難しいですね。結果、4日間ある流れの中で、守り過ぎると平凡な順位となりしますし、攻め過ぎて「あの一打がなければ」と予選落ちとなる、優勝を逃してしまうこともあります。なので、その匙加減に毎試合悩まされます。例えば、前のホールで3パットしボギーだったとします。次のホールがワンオン可能な飛距離だけど、このホールは狭いので練習ラウンドでアイアンにしようと決めていた場合でも、前のホールのプレーが悪いため、苛立ちからドライバーを持つケースがよくあります。ですが、松山英樹プロは違います。松山プロは苛立ちながらも4番アイアンを持つのです。右脳と左脳のバランスの良さ、その時々の状況を客観視し、感情をコントロールできる点に松山プロの強さがあり、キャディーとしてはすごく助かる部分でしたね。

 「なんでミスをするんだ!」と苛立つのは、どこか自分に期待する部分があるためです。トッププロでも調子のいい時は、1年に2週間程度しかないと言われています。それ以外は上手くいかないなりに、いかにスコアを作るかというゲームなのです。アマチュアの方の多くはベストショットをイメージしながら打ちますが、トッププロになればなるほど、ミスを想定しながら打っています。その中で、想定内のミスならばOKなのです。だから一般の皆さんも、想定内のミスならOKと受け入れながらプレーすると、さらにゴルフが楽しくなるのではないかと思っています。

 一方で、心配なのは忠実すぎることです。バンカーショットなどで「オープンスタンスでフェースを開いて、アウトに上げてインに下ろす」と意識しすぎるがあまり、それまで問題なくできていたことが心理的な影響でできなくなるイップスに陥る人も少なくありません。そんな時は真逆のことを試していただきたいですね。一回逆のことを試すことで案外簡単にうまくいくことが多いですよ。

 ゴルフに長く携わることで、自分が深くなっていると実感することがあります。例えば、ミスによる苛立ちやバーディーを取りたいと思う欲は、日常生活の中ではなかなか生まれない感情です。その感情をどうコントロールするかの対処により、気づきや反省点が見つかることがあります。ゴルフはそういったことを教えてくれる、人生の先生だと感じています。

 【第2回】では、次世代育成に関するご自身の将来像について伺いました。素敵な読者プレゼントもありますのでお楽しみに!

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