データドリブン型社会の今、情報が滞ることなく流通することが、生活の利便性確保や経済の安定化につながっています。そのベースとなるのがネットワークに接続されたサーバーやパソコンをはじめとする情報機器であり、それらを動かしているのが電力です。今回は、地震や集中豪雨、台風など自然災害の脅威に晒されている日本における電力安定供給の必要性および身近で有効な対策の一つであるUPS(無停電電源装置)の役割や重要性などについて解説します。
不測の事態から機器を守り、データの安全性を確保するUPS
近年、日本は大きな自然災害の脅威に晒されています。2024年元日には能登半島地震が発生、8月の日向灘を震源とした宮崎地方の地震では、初めて気象庁より「南海トラフ地震臨時情報」が発表されました。また、夏場における急激な気温上昇の影響で大気が不安定になり雷が発生、落雷被害も各地で頻発しています。加えて、線状降水帯やゲリラ豪雨も発生する中、台風シーズンが到来しました。頻発する自然災害に対し、万一の事態を想定し、備える必要性は高まっています。
一方、さまざまな情報を収集し、それらを基に意思決定や問題解決を行うデータドリブン型社会の今、データなどの数値化された情報の重要性はこれまで以上に高まりを見せています。DX推進により社会のデジタル化が加速する状況下で、その情報が滞りなく流通することは、生活の利便性確保や、経済の安定化にもつながっています。現在、情報流通の基本構成は、ネットワークに接続されたサーバーやパソコンをはじめとする情報機器であり、電力がそれらを動かしています。その電力供給が自然災害などによって途絶えたり、不安定な状態になると機器は正常に稼働できなくなり最悪の場合、格納された情報と共に破壊されてしまう恐れがあります。これは一企業や一個人に限った問題ではなく、社会全体へ影響が波及することになります。
電力供給が絶たれる状況は、自然災害を起因とした長時間の停電を想像しがちですが、瞬間的な停電や電圧変動による電源異常は日常的に発生しています。たとえ一瞬であっても電力供給が不安定になると、精密機器であるサーバーやパソコンは影響を受け、故障の原因となる可能性があります。こうした電源トラブルが発生した時に活躍するのが、UPS(無停電電源装置)です。
UPSは、予期せぬ瞬間的な停電(以下、瞬停)や入力電源異常などによる瞬間的な電圧低下(以下、瞬低)に対し、搭載された蓄電池から電力を一定時間供給し続けることで機器や装置を保護、また安全にシャットダウンさせてデータを守ります。しかし、蓄電池による電力供給の可能な時間は5~10分程度と長くはないため、あくまでも日常的に発生リスクがある、瞬停・瞬低に備える装置であるとの認識を持つ必要があります。停電が長時間、長期にわたる状況では、UPSより大きな電力供給用のバッテリーや自家発電装置などが必要になります。
UPSの給電方式と用途に合わせて選択できる蓄電池
安定した電力供給を行う給電方式として、通常時は商用電源を活用し、電源異常が発生した際にUPSに切り替え、UPSから電力を供給する常時商用給電方式、インバーターと言われる変換回路を介し、常にUPSを経由して電力を供給する常時インバーター給電方式などがあります。常時商用給電方式では、切り替え動作に要するミリ秒単位の瞬断は避けられないため、サービスの停止や誤動作が人命に影響する、経済活動に多大な影響を与えるなどのミッションクリティカルな情報システムでは、瞬断を起こさない常時インバーター給電方式を採用することが一般的です。
UPSのバッテリーには、長年流通している鉛蓄電池と、最近ではEV用の電源としても用いられているリチウムイオン蓄電池があります。鉛蓄電池は流通量が多く、比較的低コストなため、鉛蓄電池搭載型UPSは大規模システムや小規模オフィス、個人に対応したものまでと多様な種類が存在し、幅広く普及しています。一方、リチウムイオン蓄電池搭載型UPSは、電池容量が大きく小型で高出力という特徴があるものの、使用する電極材料などの素材が高価なため、コストがかかってしまうのが現状の課題と言えます。
しかし、鉛蓄電池の寿命は数年程度と短く、自動車に搭載するカーバッテリーと同様に定期的な電圧チェックが必要です。劣化していれば、万が一の時に使用できないケースがあるため、そのような場合は交換が必要になります。対して、リチウムイオン蓄電池の寿命は使用環境や周囲温度によって異なりますが概ね10年以上とされており、その点ではコストメリットがあると言えるでしょう。UPSの性能を最大限に発揮させるためには、電池寿命も考えた上で適切な運用およびメンテナンスに十分注意を払う必要があります。
安定稼働のための確実な対策を
DXの進展、社会インフラのデジタル化などによりデータの利活用が進む中、行政機関、金融機関、企業、医療機関をはじめとする経済や社会活動が、ネットワークを介した情報の上に成り立っています。そして情報を扱う機器・装置は今やあらゆる場所、あらゆるシーンで使用されています。そのため、サイバー攻撃やコンピューターウイルスだけでなく、自然災害などの不測の事態により、情報システムの停止や情報そのものが損傷することになればその影響は計り知れません。
こういった懸念を払拭し、情報システムの安定稼働をサポートするのがUPSです。情報流通社会が形成されつつある今、行政機関や金融機関のシステム、病院、データセンター、工場の製造装置などにも導入され必要不可欠となっています。たとえば半導体製造工程では、瞬停により一瞬でも電力供給が途絶えれば、工程が停止し、製造ラインの中にある半導体はすべて不良品になる恐れがあります。UPSは今や、サーバーやコンピュータをはじめ停止が許されない機器や装置など、さまざまな分野の重要なシステムに欠かせない存在となっています。
電力ネットワークの次世代化に伴う配電網の強化により、余程大きな災害でない限り、大規模な停電の発生を聞くことは少なくなりましたが、瞬停・瞬低の発生は広範囲にわたり、その数も少なくありません。ビジネスにおいてはもちろん、個人の生活においてもあらゆるものがネットワーク上の情報に依存しつつある現在、企業・個人の安定した活動のためには、大規模災害に備えるBCPの策定はもちろんのこと、情報機器・装置単位で備える仕組みを構築しておくことが不可欠となります。
今後、さらにデータドリブン社会が進展すれば、システムの安定稼働に向けた電力供給の重要性は一層高まることでしょう。また、これからは企業だけではなく、私たちも不測の事態を想定し、情報のバックアップや電力の安定供給について考えていく必要があります。まずは現状を把握し、身近な電源対策から取り組んでみてはいかがでしょうか。
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