例年、年末年始はさまざまなメディアで帰省/Uターンによる高速道路の渋滞状況が報じられます。今年の年末年始休暇は特に、土曜日と日曜日が組み合わさることによって、最大9日間の大型連休になることから、海外旅行はもちろん、国内旅行や故郷への帰省を計画している方も多いのではないでしょうか。今回は高速道路の「交通集中」により発生する渋滞について、その原因と対策を解説します。
高速道路の渋滞を引き起こす「サグ部」とは
例年、年末年始の各高速道路では激しい渋滞が予想され、発生したその渋滞による長い列の様子がさまざまなメディアで映し出されます。年末年始に限らず、ゴールデンウィークや夏のお盆休みなども含めた長期連休の期間は多くの企業で休暇が重なり、旅行や帰省をする人が同時期に移動するため、必ずといってよいほど「交通集中」による渋滞が話題になります。そもそも渋滞とはどういった状況を示し、どのようにして発生するのでしょうか。
高速道路を管理・運営する各企業では、高速道路の渋滞を「時速40㎞以下で低速走行、あるいは停止発進を繰り返す車列が1㎞以上かつ15分以上継続した状態」と定義しています。高速道路における渋滞の種類には、一定の交通量を超え交通が集中することによって発生する「交通集中渋滞」、工事の影響による車線規制などに伴い発生する「工事渋滞」、交通事故によって発生による「事故渋滞」のほか、対向車線などで起きた事故を見るために減速し発生する「見物渋滞」があります。
東日本エリアの高速道路を管理・運営する企業では、2023年の同管内で発生した渋滞のうち、約7割が「交通集中」によるもので、渋滞発生箇所の約6割が「上り坂」および「サグ部」であったと報告しています。「サグ部」と言われる勾配が緩やかな上り坂では、ドライバーが上り坂に気が付かず、自然と速度が低下し、後続車が車間距離を保つために次々と減速し、やがて後方では停止するような事態が発生します。上り勾配にさしかかった際、自然とアクセルを踏み込んで速度を上げるのが普通ですが、高速道路のような広い道路の場合、その上り勾配や速度低下に気づかない場合が多いと言われています。どこに「サグ部」があるかはわかりにくいかもしれませんが、道路脇の防音壁などに水平方向にラインが引かれ場所、「速度回復を」といった標識がある場所は「サグ部」にあたります。
有名な「サグ部」として挙げられるのが、東京都と山梨県の境にある小仏トンネルです。トンネルという暗くて狭い箇所に入るため、アクセルを踏み込めない、そして緩やかな上り勾配のため速度が落ちてしまうため渋滞が発生しやすいポイントです。渋滞時にはトンネル内で「速やかに速度回復してください」というアナウンスが流れるほどです。渋滞が頻発する対策として、現在上りのトンネル(2車線)の北側に新しいトンネル(1車線)を造り、トンネルの前後を含めた約5㎞を2車線から3車線にするプロジェクトが進められています。
渋滞を回避するために私たちができること
渋滞を回避するためには、渋滞のピークを避けることが第一です。先ほどの企業では、2024年の年末年始における渋滞予測として、故郷へ向かう下り線の帰省ラッシュを12月29日、都市部へ戻るUターンラッシュを1月3日と発表しました。渋滞を回避するためには、これらの日を避けた分散利用を計画することがまず大切です。また、比較的交通量が少ない深夜や早朝に渋滞ポイントを通過すること、多少遠回りだとしても、迂回路を考えておくことも回避するための対策となります。
そのほか、年末年始特有の注意すべき点として降雪が挙げられます。降雪が当たり前の地域を走行して故郷をめざすドライバーにとっては、スタッドレスタイヤやタイヤチェーンの装着といった雪対策の必要性は言うまでもありませんが、高速道路に限らず一般道路においても雪対策がなされていなく、立往生する自動車が原因の大渋滞が近年発生しています。地球温暖化の影響による異常気象が頻発する昨今、不測の事態に備えた準備は必須となりつつあります。
高速道路において、記録に残る過去最長の渋滞は1995年12月27日に名神高速道路で発生した154㎞です。愛知県内のゲリラ豪雪による通行止めが原因で、名神高速道路の泰荘パーキングエリア(PA)(滋賀県愛荘町・現在は改称されて湖東三山PA)から東名高速道路の赤塚PA(愛知県豊川市)までの大渋滞となり、解消されるまでに23時間を要しました。
なお、渋滞に巻き込まれたことを想定し、どこで休憩するかを事前に計画しておくことも重要でしょう。渋滞時にはサービスエリア(SA)やPAも当然混雑します。渋滞が始まる前にSA・PAに立ち寄り、食事やトイレ休憩などをとることや、車内で飲食できるものを予め用意しておくことも大切なポイントです。加えて、渋滞によるストレスが原因となり焦燥感に駆られ思わぬ事故につながる可能性もあります。適正な速度と車間距離を保ち追突事故防止にも心がけましょう。
渋滞を解消するための技術
渋滞を減らすためには、私たちが渋滞発生の仕組みを理解し、「ちょっとした心がけ」を実践することが必要不可欠です。こうした対策以外でも、渋滞を解消する技術として、すでに全国に普及したETC(Electronic Toll Collection、高速道路自動料金収受システム)があります。このシステムにより、以前の高速道路料金所における支払い待ち渋滞はほぼ解消したといえるでしょう。年末年始は、ETC休日割引は適用されませんが、深夜など時間帯による割引サービスなどのメリットもあります。
自動車もネットワーク端末となる現代において、カーナビゲーションシステムや自動車の盗難防止に用いられるテレマティクス情報は渋滞回避のほか、災害時などにも役立っています。テレマティクスとは、自動車などの移動体に通信システムを組み合わせ、リアルタイムに双方向で通信しながら情報サービスを提供するものです。2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震では、通行可能な道路やがけ崩れなどによる通行止めの箇所を示した「通れるマップ」が活躍し、震災後の支援活動へも活かされています。その場所を走行中の自動車が、停止や時速15㎞程度の長時間走行状況を送信するため、ドライバーは「通れるマップ情報」を通じて通行止めの箇所や渋滞状況を確認し、目的地まで最適なルートを走行できる仕組みとなっています。また、ETCの進化系であるETC2.0もテレマティクスを活用したシステムで、高速道路料金所の出入りの情報だけでなく、経路情報の把握が可能となる機能が備わっています。
渋滞の発生ポイントとして「サグ部」を取り上げましたが、「サグ部」でも渋滞解消のための技術が用いられています。トンネル壁面に緑色のLED照明を設置し、順番に点滅させる「速度回復誘導灯」です。それぞれのLED照明は間隔をあけて点滅しているだけですが、走行中のドライバーは前方に向かって順番に点灯しているように錯覚し、それにより無意識に速度回復が進むのです。なかには「速度回復を」という文言が出てくる「速度回復誘導灯」もあります。
将来的には自動運転が渋滞解消の解決策になると期待されています。AIが走行状態を把握し、すべての自動車が適切な速度で走行すれば、渋滞の発生は解消できるはずです。まもなくやってくる年末年始。一年の締めくくりと同時に新たな年の幕開けでもあるこの時期、渋滞を避けながら新年を気持ちよく迎え、そしてすっきりした気持ちで新たな一年を始めたいですね。みなさま良いお年をお迎えください。
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