前編では、ゴルフとの出合いからゴルファーとしてデビューし、ツアー優勝を挙げるまでの道のりを振り返りながら、当時の思いをお話いただきました。後編となる今回は、医学修士の立場から最大のパフォーマンスを発揮する方法などについて解説いただくとともに、ゴルフの魅力、力を注いでいる動画配信やこれからのゴルフ界に対するご自身の考えについて伺いました。
適度な興奮とリラックスのバランスを追求
――自律神経をコントロールし、13年ぶりとなるツアー優勝を挙げられました。これがきっかけとなり、順天大学大学院医学部の修士課程に入ることになったのですね
そうなんです。キヤノンオープン優勝後、すぐに小林先生から順天堂大学大学院医学部医学科での自律神経の研究を勧められました。正直驚きましたね。これまで受験した経験がないうえに、熱心に勉強もしてきませんでしたから。聞いてみると試験は面接と英語のテストだけで、英語対策として家庭教師を紹介すると言われました。そこから2年間、毎週月曜日に英語の授業を受け、必死に勉強を続けて合格することができました。
大学院時代の修士論文のテーマは「プロゴルファーにおける自律神経とパフォーマンスの関係」でした。自律神経とパフォーマンスの相関関係を検証するために、ツアーシード選手59人に協力いただきその日の朝の神経活動が当日のパフォーマンスにどう影響するのか調査しました。その結果、交感神経と副交感神経を合わせたトータルパワーが高い人ほど打球の飛距離が出るという相関関係が見られました。
実は、交感神経、副交感神経のバランスはここまでは上げられるという絶対値があり、双方を高い状態に保つことでトータルパワーを上げ、自身における最大限のパフォーマンスを発揮することができます。一方、トータルパワーを下げるのはとても簡単で、ダラダラとした生活を続けているとあっという間に下がってしまいます。つまり、日頃から規則正しい生活をし、交感神経と副交感神経のバランスを高く保つことが重要なのです。
――ゴルフは1ラウンド18ホール、ツアーは4日間の長丁場です。興奮とリラックスをバランスさせるのは大変ですね
プロゴルファーは自律神経が卓越しているかというと、そんなことはありません。プロゴルファーであっても、集中力をキープし続けることは難しいことです。よくメンタルを鍛えるなどと言いますが、そういう問題ではないと私は考えています。必要なのは繰り返しになりますが、自律神経をコントロールすることです。予期せぬ出来事が起こると交感神経が上がってしまうので、極力無駄なことをせずシンプルに過ごすことが良い結果を生む、これは脳科学でも立証されていますし、実はタイガー・ウッズがゆっくり歩くのもこのためです。
また、副交感神経は自信と安心から成り立つものなので、副交感神経優位になるためには状況に応じた適切な対応を都度できること、つまり地道な練習が必要だということです。準備万端で臨めば臨むほど副交感神経が上がり「よ~し、行くぞ~」となった時、集中力が非常に高まりいわゆる“ゾーンに入る”状態になります。これはゴルフに限った話ではなくビジネスにおいても同様です。「集中できる環境を自分でつくる」ことがとても重要で、それが適度な興奮とリラックス状態を生み、最大のパフォーマンスを発揮できることにつながると私は考えます。
横田プロが考えるゴルフの魅力
――アマチュアゴルファーにとって、良いスコアのために自律神経をコントロールするというのは難しいことですよね
準備万端を整えることで、自信と安心が生まれますが、ゴルフの場合だと3,000時間練習すれば9割の人がシングルプレーヤーになれると言われています。高校時代の練習が毎日3時間ほどでしたが、365日でほぼ1,000時間。それを3年間やり切ることで9割の生徒がシングルプレーヤーになる計算です。
シングルプレーヤーになるために、良いコーチに教えてもらいたいという方は数多くいらっしゃいます。良いコーチに就いてもらうことも大事ではありますが、まずは3,000時間の練習は必要だと思わなければなりません。練習はちょっとずつ小分けにするより、毎日3時間は無理でも2時間ずつ3年間しっかり練習すればシングルプレーヤーになることは夢ではありません。若い世代に限らず、年配の方でもコツコツ練習を続けていくことでハーフラウンドのスコアが40~42でプレーすることは十分可能だと私は考えています。是非、皆さんにも頑張っていただきたいですね。
――横田プロが考えるゴルフの魅力はどのようなところにあるとお考えですか
大きく2つあると思います。まず1つは、あらゆる球技の中でボールを最も遠くまで飛ばせるという爽快感があること。たとえば、小学生でも条件次第ではメジャーリーグの大谷翔平選手のホームランよりも遠くまで飛ばすことができます。ナイスショットをして心地よい打音とともにボールが軽々遠くまで飛んでいくことがゴルフの気持ち良さであり、醍醐味だと思っています。
2つ目は、普段あまり接する機会のない方々と、一緒に楽しむことができること。たとえ野球やサッカーが上手でも、企業の経営層や著名人、お得意先の方々と一緒に楽しむというケースは稀かと思います。一方ゴルフは、18ホール終了までの時間を共有できますし、実力が違う人同士でも楽しむことができるスポーツです。ゴルフを通じて交流の輪が広がり、そこからビジネスにつながることもあるでしょう。
ゴルフ人口拡大のために
――YouTubeの「横田真一チャンネル」が登録者数20万人を超え好評です。このチャンネルを始めたきっかけや登録者数が伸びている要因などを教えてください
YouTubeのチャンネルを開設したのは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まった頃です。それまで、我々プロゴルファーが情報発信できる媒体は、テレビのレッスン番組やゴルフ雑誌の企画などが主流でした。現在も、ゴルフ雑誌のレッスン企画などにお世話になっていますが、ページ数に限りがあるためお伝えできる情報量には限界がありますし、内容は発刊元である出版社が検討したものが多く、私自身の生の声をなかなか発信できていなかったように感じていました。そのようなことから、自身の思いを自分の言葉で発信したいと考えるようになり、さまざまなSNSが普及する中、自身のブランディングも兼ねて、動画配信チャンネルの開設を思いついたのです。
「横田真一チャンネル」は、尾崎将司プロ、尾崎直道プロ、丸山茂樹プロ、倉本昌弘プロなど錚々たるプロゴルファーに出演いただいたこともあり、4年間続けてこられました。私のレッスン動画を上げてもあまり視聴回数が伸びませんが、こういったいわゆるレジェンドと言われる方々のインタビューの回は視聴回数がグンと増えます。視聴者の皆さんは、私の技術よりも私の人脈に期待しているのかもしれませんね。
また、シニアツアーの会場で、シニアプロのクラブセッティングを見せてもらうなど、ほかのYouTuberには真似できない私ならではの企画を発信するよう心掛けています。そのほか、今まで数々のゴルフクラブと向き合ってきた自分の経験から「最新のクラブは必ずしも最良のクラブではない」を実証するため、安くても良い中古クラブの紹介や1ダース2,000円のボールは飛ぶのか飛ばないのか実際に試してみるなど、若い世代の方へも親しみやすい内容をお届けすることで、ゴルフを身近に感じてもらうことを狙いとしています。こういった企画の積み重ねにより、ゴルフ人口拡大に少しでも貢献できればと考えています。
――最後に、最近は女子ツアーに比べ男子ツアーの人気がやや沈滞気味と言われます。これを盛り返すためにどうするべきとお考えですか
私が「横田真一チャンネル」を配信する中で気がついたことは、現在ゴルフに関する情報発信が不足しているのではないかということです。これを改善するため、競技模様などの映像をインターネットで配信していくことが必要なのではと考えています。競技模様は地上波でも中継されていますので、地上波の中継でカバーしきれない部分、たとえば1番ホールのスタートから12番ホールくらいまでを動画配信で補っていくなどです。これにより今まで実現できていなかった、クロスメディアによるフルタイムでの競技視聴が可能となりますよね。ツアーがない時期は、ツアープロ全員をスターにするつもりで、全員にまんべんなく登場してもらい、ファンが毎日楽しめるコンテンツを発信していくということも検討すべきかと考えています。
このような取り組みを通じて、ファンの皆様やスポンサー、メディアと良い関係を築きながらツアーを盛り上げていきたいです。なぜなら、「日本のゴルフ人口を増やしたい、プロゴルフの人気を高めたい」と誰よりも私が強く願っていますので。
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