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ビジネスコラム

鉄道が運んだ初詣文化 日本の年始を彩る伝統行事の変遷

2025年12月24日

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お正月を彩る風物詩「初詣」。近所の寺社から全国の有名な参拝スポットまで多くの人が足を運びます。しかし、こうした大規模な初詣の風習が全国的に広まったのは、明治時代以降のことです。その起源は家長が大晦日の夜から元日にかけて神社や仏閣に籠る「年籠り」でしたが、やがて鉄道の発達とともに、現代のような数百万人規模の慣習へと変化を遂げました。今回は、その歴史的な背景と現状における姿について解説します。

「一年の計は元旦にあり」

 クリスマスを迎える頃から、日本の年末年始は一気に慌ただしさを増してきます。年末の大掃除を済ませると、すぐにお正月の準備が始まり、大晦日には家族や友人と豪華な料理を囲みながらテレビの特番を楽しみ、年越しそばを食べて新しい年を迎える準備を整えます。除夜の鐘を聞きながらゆく年に思いを馳せ、新年を静かに迎えるというのは、日本人にとって心落ち着く年末年始における風景の一つです。一方で、繁華街に出かけてカウントダウンイベントに参加するなど、近年、賑やかに新年を祝うスタイルも定着しつつあり、年越しの過ごし方も人それぞれになってきました。

 新年を迎えた元日は、暦の上で特別な意味を持つ日とされており、「一年の計は元旦にあり」という言葉にもあるように、新たな一年をどのように始めるかが大切にされています。なお「元日」は1月1日その日全体を示し、「元旦」はその朝を意味する言葉です。新年の朝に一年の目標や計画を立てるのも、日本らしい丁寧な時間の使い方と言えるでしょう。

 そして、年が明けると多くの人が向かうのが「初詣」です。これは新年最初に神社や寺院を参拝し、終わった一年への感謝を捧げるとともに、無病息災や家内安全、学業成就などを祈願する、日本人にとって大切な恒例行事です。かつては「年籠り」と言って、家長が大晦日の夜から元日にかけて氏神様のもとに籠り、一家の安寧を祈る風習がありました。やがてこの風習が変化し、新年を迎えてから参拝する「元日詣」が今の初詣の原形となったとされています。

 また、大晦日の夜には全国の寺院で「除夜の鐘」が打ち鳴らされ、108回の鐘の音とともに人々の煩悩が祓われると信じられています。その除夜の鐘を聞いた後、年を跨いで神社や寺院を訪れる「二年参り」も、年末年始ならではの風情ある習慣です。深夜から早朝にかけて神社仏閣を訪れる機会は普段あまりないため、多くの人にとって特別な時間として記憶に残る行事となっています。

初詣を一大イベントに変えた鉄道の力

 こうして新年の大切な行事として定着している初詣は、もともとは地域ごとに根づいた風習として、静かに行われていたものでした。それが現在のような、誰もが当たり前に行う行事となった背景には、明治時代以降の社会変化が大きく関係しています。明治時代以降、日本では急速な西洋化と近代化が進められました。文明開化により生活様式が変化していく中で、初詣の浸透が進んだ背景にあったのは、西洋文化の影響ではなく「鉄道の発展」だったのです。

 鉄道が全国に広がったことで、物資の流通だけでなく人の移動も容易になりました。その結果、人々は遠くへ旅行するという新しい楽しみを手にするようになり、初詣の参拝客が増えたことも、その流れの一つです。もともと有名な神社仏閣は全国各地に点在していましたが、徒歩での長旅は簡単なことではありませんでした。鉄道が整備されたことで、遠方の神社仏閣への参詣が可能になり、多くの人が「特別な初詣」を興じるようになったのです。

 特にお正月は、多くの人が休暇を取る時期でもあり、鉄道会社にとっては利用者を増やす絶好の機会となりました。そのため「初詣列車」と名付けられた臨時列車の運行や、沿線にある神社仏閣へのアクセスを前面に打ち出した広報活動などが行われ、神奈川県川崎市の歴史ある寺院への参詣に関東圏のとある私鉄を多くの人が利用するなど、初詣における鉄道の役割が広く認識されるようになりました。このような取り組みは他の公共交通機関にも広がり、年末年始には有名な寺院への参詣客の増加に対応して、鉄道・バス会社が終夜運転を行うなど、初詣と公共交通機関との関わりがより一層深まっていきました。これにより「地元の氏神様」への参詣から「遠方の有名な神社やお寺」への参詣へと、初詣スタイルが次第に変わっていったのです。

 このようにして、公共交通機関というインフラの発展によって人々の移動範囲は広がり、初詣という日本文化も変化していきました。やがて初詣は、誰もが気軽に楽しめる全国的な年中行事として定着していったのです。また、方角や地域にとらわれず、自分の行きたい神社仏閣に参拝するという自由なスタイルも、こうした時代の流れの中で自然と根づいていきました。

コロナ禍から復活した初詣

 交通網の発展によって、地域に根差した風習だった初詣は全国的な年中行事へと姿を変え、多くの人が新年のスタートを神社仏閣で迎える光景がすっかり日本の風物詩となりました。その初詣も、現代社会において一時期その姿を大きく変えることになります。それが新型コロナウィルス感染症拡大による影響です。感染拡大防止のため、参拝の分散や自粛が呼びかけられた期間中は、例年のような人出が見られなくなり、静かな年始を迎える神社仏閣も少なくありませんでした。しかし、社会の落ち着きとともに人々の動きも戻り、ここ数年は再び初詣が多くの参拝客を集める一大行事として復活しています。

 毎年、お正月のニュースで報じされる初詣の参拝者数。たとえば毎年の参拝者数ランキングでも常に上位に名を連ねる東京、千葉、京都の神社仏閣には、正月三が日だけで数百万人規模の人々が訪れます。今や「どこへ行くか」だけでなく、「なぜそこへ行くか」という人それぞれの思いや動機も含め初詣が語られるようになりました。「大勢が訪れるからご利益がありそう」「毎年決まってここに参拝しているから」「繁華街の近くだから帰りに食事も楽しめる」など、その理由は人によってさまざまです。特に都心の有名寺社はアクセスも良く、周辺には商業施設も多いため、初詣と買い物や食事を組み合わせる人も少なくありません。

 他の地域へ目を向けても、福岡、島根、三重などの歴史と格式ある神社仏閣が初詣の定番スポットとして定着しています。特に太平洋側は冬でも比較的天候が安定しているため参拝しやすい環境にあります。一方で、雪が降る地域でも、多くの人が寒さに負けず初詣に出かけるのは、それが単なる行事ではなく、年始の大切な習わしとして生活に根付いているからにほかなりません。また地域によっては、1月15日ごろの「小正月(こしょうがつ)」を賑やかに祝う風習が残っているところもあります。元日からの「大正月」が年神様を迎える期間とされるのに対し、小正月は、家庭的で穏やかな行事が中心となり、豊作祈願や家内安泰を願う時間として位置づけられています。

 こうして見ていくと、大規模な神社仏閣であっても、小さな地域の社であっても、初詣は日本人にとって心を整え、新しい年を迎えるにふさわしい神聖な時間となっています。それは、単なる観光イベントではなく、自分自身と向き合い、未来への希望を静かに願う精神的な営みであり、まさに日本人の価値観や美意識が表れた文化の一つと言えるでしょう。

 正月三が日は一年の始まり。親戚が集まったり、仲間と郷土料理やお節料理を囲んだり、楽しい時間を過ごす人も多い中、神社やお寺へ出かけ、無病息災や家内安全を祈願するというひとときが、私たちに静けさと清々しさをもたらせてくれます。みなさんも初詣へ出かけ、気分新たに一年をスタートさせてみてはいかがでしょうか。みなさま良いお年をお迎えください。

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